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独自の品揃えを追求し差異化「全員参加の経営」で改革進める=平和堂 夏原平和社長

滋賀県を拠点に近畿、北陸、東海圏で事業展開する平和堂(夏原平和社長)。近年、商勢圏各地で競争が激化し、経営環境は厳しさが増している。同社は今春、農業事業進出で「製造小売業」への一歩を踏み出したほか、デリカ部門を強化し、独自の品揃えを追求。また、地域密着の営業方針のもと買物代行サービスを展開するなど、競合店との差異化に取り組む。同社の経営戦略について夏原社長に聞いた。

反日デモで中国の3店舗が被害

──2012年9月15日、中国湖南省の3店舗が反日デモによる破壊、略奪行為で被害を受けました。同年11月までには全店再開しましたが、その間、どのように行動しましたか。

平和堂 代表取締役社長
夏原平和 なつはら・ひらかず
●1944年9月15日、滋賀県彦根市生まれ。68年、同志社大学法学部卒業、平和堂入社。70年、取締役。75年、専務取締役。83年、取締役副社長。89年、代表取締役社長。2013年5月、日本流通産業代表取締役社長

夏原 今も、いろいろな方から「中国は大変でしたね」と言われます。それほど、日本で流れた映像がショッキングだったのでしょう。私もテレビで見て、“撤退”の二文字が頭をよぎりました。

 事件後、現地入りしたのは9月23日。まず、店舗のある湖南省の政府トップと会談したところ、「われわれも最善を尽くしたが防げなかった。罪を犯した者は処罰する。今後、二度と同じことが起きないようにする」との確約を得ました。また店舗では、現地採用した中国人スタッフも再開を望んでいると知り、営業しても大丈夫だと判断しました。どの店も売上は順調で、今年4月以降は前年程度まで回復しています。

──4月28日、湖南省長沙市に中国4号店の「平和堂中国 AUX(オックス)(奥克斯)広場店」をオープンしました。難しい決断だったのではありませんか。

夏原 いえ、昨年9月のデモ被害の後、「中国でのビジネスはやり直せる」と見た時点で、すでに開店を決めていました。

 同店は大規模商業施設の核店舗として入居しています。地上6階建てで、1階は直営の食品を中心とした売場、2~6階は、衣食住のテナントが入る百貨店のようなスタイルです。今後、中国では5号店以降も出店する考えで、すでに新たな物件を探しているところです。

──国内の事業について教えてください。13年2月期決算は、営業収益(連結)3925億円(対前期比0.8%増)、営業利益123億円(同2.6%増)、経常利益128億円(同5.9%増)で、増収増益でした。

夏原 くわしく見ると、決して満足できる内容ではありません。既存店が前年実績をクリアできていないのです。08年9月のリーマン・ショック以降、とくに非食品の低迷が著しく、最近ようやく下げ止まったというのが現状です。

──原因は何ですか。

夏原 とくに、地区別売上高構成比で44.2%を占める本拠の滋賀県をはじめ各地で、有力店が増えるなど、競争が激化する傾向にあるからです。これに対し現在、価格政策を見直す一方、自社の強みを最大限に生かした店づくり、店舗運営で他店との差異化に取り組んでいるところです。

今春、農業事業へ進出

──消費者の購買行動はどのように変化していますか。

夏原 価格に敏感な消費者が確実に増えています。とくに目立っているのは20歳代後半から30歳代にかけての世代です。彼らの雇用形態は派遣社員や契約社員も多く、また賃金の大幅な上昇もなかなか期待できません。当社では、そういった方も安心して買物してもらえるような店になるように変えているところです。

──具体的には、どのようなことに取り組んでいるのですか。

夏原 昨年9月から、価格政策を大幅に見直し、従来のハイ&ローを減らし、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)の商品を増やしています。飲料や菓子、レトルトといった食品を年間を通じ低価格で提供する「生活応援得だ値」、3カ月間で対象商品を見直す「期間限定得だ値」、さらに1カ月を期間とする「スーパープライス」などで安さをアピールしています。

 一方で、デリカ部門を強化することによる差異化にも取り組んでいます。高齢化の進展、単身世帯の増加などを背景に、簡便商材のニーズが高まっています。この部門は、低価格志向の店では揚げ物が中心で、それほど充実していないようです。これに対し、手間をかけた、おいしい総菜やおいしい弁当を安価で販売することを当社の強みにしていきたいと考えています。現在、新規出店や既存店舗のリニューアルのタイミングで売場を拡大するとともに、当社でしか買えない「名物総菜」の開発に力を入れています。

──独自商品といえば、今春には農業事業に進出、製造小売業としての一歩を踏み出しました。

夏原 農業生産法人「サニーリーフ」を設立し、滋賀県彦根市に水耕栽培の生産拠点を整備しました。「安全・安心」な商品を提供することを第一としています。相場が変動しやすい青果物を安定的な価格で販売するねらいもあります。すでに水菜やレタスといった葉物野菜が、一部店舗に並んでいます。技術的にはハウス栽培したアスパラガスを年中、販売することも可能で、今後は当社独自の品揃えも探っていきます。

独自販促で客数が増加

──店舗政策について教えてください。

夏原 今期(14年2月期)は競争力ある店舗フォーマットの確立を急いでいるところです。現在、主力は売場面積450坪(1485平方メートル)で、立地、商圏を見ながら300坪(990平方メートル)、さらに550坪(1815平方メートル)のサイズも使い分けています。今後は、より大きな600坪、また飲食店やドラッグストアなどのテナントを取り入れたNSC(近隣型ショッピングセンター)も選択肢とし、強い店舗網を構築していきます。

 13年2月期には、「フレンドマート尼崎水堂店」(兵庫県尼崎市、店舗面積980平方メートル)、「フレンドマート大津京店」(滋賀県大津市、同2344平方メートル)、「フレンドマート伊勢田店」(京都府宇治市、同1981平方メートル)、NSCの「フレンドタウン瀬田川」(滋賀県大津市、同7939平方メートル)の4店舗を出店しました。今期は、滋賀県、京都府、大阪府といった近畿のほか、愛知県などへの出店も計画しています。

──競争力ある店舗網を着実に拡大していくということですね。

夏原 店舗というハードを強化する一方、ソフト面では従業員の自発性を育成するためのプログラムを4年前からスタートしています。「ピカピカ実現活動」で、店や売場をよくするアイデア、工夫を競い合う定例イベントです。年2回開催、参加者は店舗からの応援団を含め約1000人にもなり、大いに盛り上がります。今春の大会では、約3000グループの中から、地区予選を勝ち抜いた8組が発表を行いました。

──発表とはどのようなものですか。

夏原 今春の大会で第1位に輝いたのは「平和堂豊成店」(愛知県名古屋市)グロサリー部門のグループです。テーマは「お客様の笑顔を目標に!! 曜日販促での楽しい売場作りでご奉仕アップ!!」で、来店客数の増加を目標に置いた曜日販促の取り組みでした。自店の商圏を分析、独自販促の実施により、新たなニーズを引き出す内容で、客数に加え、売上高も大幅に伸ばしました。

 ほかにも、売場づくり、サービス、店舗の効率運営などテーマは多岐にわたります。このプログラムを続けることで、従業員が自ら考え、行動する風土を定着させたいと思います。

「困りごとも解決します」

──高齢化が進み、思うように買物ができない人が増えています。これに対し、平和堂では会員制の買物代行サービス「ホーム・サポートサービス」を提供しています。利用者の広がりはいかがですか。

夏原 欲しい商品を電話やFAXで受けつけ、1回当たり105円で宅配(一部店舗で1カ月使い放題は525円もあり)するという内容です。10年9月、創業店の彦根銀座店(滋賀県彦根市)でスタート、その後、徐々に実施店を広げ、利用者は増える傾向にあります。具体的には11年2月に「アル・プラザ近江八幡」(同近江八幡市)、同年9月「アル・プラザ長浜」(同長浜市)、13年5月「平和堂あどがわ店」(同高島市)、同年7月「フレンドマート石山寺辺店」(同大津市)と、現在5店まで拡大しています。

──ユニークなのは、日常のちょっとした不便や困りごとを解決するサービスも実施している点ですね。

夏原 高齢になると、日常生活全般で不自由を感じることが多いものです。春に冬用の布団を片付けたり、夏に扇風機を出してきたりと、ちょっとした作業も骨が折れます。単純な作業は無料ですが、庭の雑草抜きや墓掃除といった一定の労力が必要な内容は、1時間1500円で引き受けています。

──低額の料金設定で採算に乗せるのは難しいのではありませんか。

夏原 初期に始めた店では会員も増え、収支とんとんのレベルにはなっています。ただ地域貢献のために始めたものなので、事業として大きく儲ける考えはありません。

 むしろお客さまの家に上がり、直接コミュニケーションすることで得られる情報の価値の大きさを感じています。どのような商品、サービスへのニーズがあるかの声をリアルに把握できますし、それが今後のビジネスのヒントになるかもしれません。

──「お客さまの家に上がる」ことができるのは、滋賀県で圧倒的な信頼を得ている強みですね。競争が激化する中、大きな武器となりそうです。

夏原 滋賀県ではもちろんですが、他府県でも地域密着型の店舗運営を意識しています。今後、そういった低価格以外の戦い方に磨きをかけていきたいと考えています。

来春、新PCが稼働

──今年5月1日、加盟する日本流通産業(ニチリウ、大阪府)の代表取締役社長に就任されました。共同仕入れ機構のトップとして今後、どのように采配を振るう考えですか。

夏原 ニチリウの目的は、マスメリットの最大化にあります。その役割を十分に発揮できるような活動を展開したいと考えています。

 重要な事業のひとつはプライベートブランド(PB)「くらしモア」の開発です。たとえば、キムチを韓国から輸入するにしても、マスメリットを追求すれば仕入れコストを低減できるだけでなく、商品回転率も上げられ、つねに鮮度の高い商品を販売することができます。競争の激しい時代にあってPBの重要性は高まっており、今後も力を入れていきます。

 また、現場での成功事例なども、加盟企業で共有しながら、全体として強い企業群になれるよう努力していきます。

──さて、平和堂の事業規模は、営業収益4000億円の大台も近づいてきました。次代をにらみ、インフラの整備にも着手されているようですね。

夏原 来年4月には、滋賀県犬上郡にある「多賀センター」(物流センター)敷地内に、新しい生鮮食品のPC(プロセスセンター)が稼働します。

 従来、同彦根市の本部近くにあった施設が手狭になり、メーン機能を移設する格好です。新センターは敷地面積9300坪、2層構造で延べ床面積3565坪。取り扱いカテゴリーは精肉、鮮魚、塩干品で、これらを加工、パックすることで、店舗のローコストオペレーションに大きく寄与する計画です。なお、新PCの年間の生産数量は5000万パックで、旧施設に比べ2.5倍の処理能力を備えています。

 同時に進めているのが、情報システムの再構築です。22億円を投じる大規模な計画で、従来のシステムを刷新します。まずは、来年の消費税引き上げまでには対応できるよう、急いでいるところです。

──最後に、経営課題について教えてください。

夏原 お話ししたとおり、当社では現在、さまざまな分野で取り組みや改革を進めています。要となるのは人材であり、いかに指導的立場のスタッフを育成するかが重要だと認識しています。すでに、各プロジェクトにはリーダーがいるため、その下位の層で新たな人材を育て、より大きな成果を出すのが課題です。「全員参加の経営」を掲げ、取り組みや改革を成功させたいと考えています。