EC物流国内実績№1イー・ロジット(東京都/角井亮一社長)の毎年恒例、物流戦略セミナーが、去る10月20日に開催された。節目の20回目となる今回は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、初めてのオンライン開催となったが、このコロナ禍にあっても高い成長を続けているワークマン(東京都/小濱英之社長)、オイシックス・ラ・大地(東京都/髙島宏平社長)両社から、戦略に深く関わる土屋哲雄氏(ワークマン専務取締役)、奥谷孝司氏(オイシックス・ラ・大地執行役員)がゲストスピーカーとして登場。例年以上の盛り上がりをみせた。本稿では「顧客とつながることの重要性」をテーマにした奥谷氏の講演をまとめた。
奥谷孝司:オイシックス・ラ・大地 執行役員兼COCO(Chief Omni-Channel Officer)。1997年良品計画入社。2005年衣服雑貨のカテゴリーマネージャー、2010年WEB事業部長を経て、2015年10月オイシックス(当時)入社し、現職。
デジタルシフトの遅れが目立つSM・HC
「顧客とつながることの重要性」をテーマに話を進めたのは、奥谷孝司氏だ。奥谷氏は、前職の良品計画時代、顧客同士がつながる空間を提供するスマホアプリ「MUJIパスポート」を立ち上げた。現在も、共同CEOを務める株式会社顧客時間において「顧客といかにつながるか」を研究対象にしている。
奥谷氏は、このコロナ禍で起こった消費行動の変化をさまざまな視点からとらえている。一つ目は、食品スーパー(SM)、ホームセンター(HC)、家具専門店、アパレル、家電量販店など、チャネル別のデジタル決済の比率を比較したところ、業態によって明らかな濃淡が出ている点だ。アパレル専門店や家電量販店のデジタルシフトが進んでいるのに対し、コロナ禍で業績を伸ばしたSMやHCはリアルの決済が圧倒的に多く、デジタルシフトの遅れが目立っていることを今後の課題として指摘した。
コロナ禍で起こった新たな消費行動
奥谷氏は次に、この4〜5月にインターネット上の検索ワードの傾向から、「ふるさと納税」「UberEATS・デリバリー」「クラウドファンディング」が、新しい消費行動として見えてきたという。
「ふるさと納税」の需要はここ数年、年末年始に集中していたが、今年は本来旅行シーズンである4〜5月に外出自粛や巣ごもりを強いられたことから、本来なら旅先で消費していたものをふるさと納税の返礼品に求めたのではないかと分析している。実際、オイシックス・ラ・大地の生産者と話をしてみると、ふるさと納税の返礼品を提供しているところはコロナ禍でもしっかり売り上げをあげることができたという。
「UberEATS・デリバリー」はコロナ禍で躍進したサービスの一つだが、ポイントは大手小売だけでなく、地元のレストランや鮮魚店などでも購入・依頼するというケースが少なくなかったという点だ。デジタルでつながることで実現可能になった消費行動のひとつといえるだろう。
さらに奥谷氏は、「クラウドファンディング」も“新しい小売”になる、という見立てをしている。「ある知人のレストランでは、コロナ禍で売上が激減。家賃の支払いにも窮していたが、コロナ収束後に食事を提供することを「リターン」(お返しのこと)にクラウドファンディングを実施したところ数百万円を獲得、当座の家賃の支払いにあてることができた。これは顧客とデジタルでつながっていることから生まれた、新しい小売市場ではないか」と話した。
デジタルを介して顧客とつながり続ける
「コロナ禍で今後より一層注目されるようになる」と奥谷氏が指摘するのが、「場の価値」だ。いまやアマゾンは言うに及ばず、オンライン起点の多くのベンチャー企業では、デジタルでの顧客とのつながりを強固にすることを重視している。デジタル経由で築いたつながりを活かせば、リアル店舗もうまく運営することができる。一方でこれまでのリアル店舗は、顧客とのつながりが脆弱だった。商品を買うか買わないか、という視点(たとえばPOSデータ)でしか、顧客とのつながりはほとんどなかった。
ここで必要となるのが「顧客との時間の共有」、つまりオンラインIDでつながり続ける関係性の構築だ。奥谷氏が前職で立ち上げたスマホアプリ「MUJIパスポート」は、顧客とのつながりを意識したものだった。直接的なEC売上の拡大ではなく、商品を購入してから顧客がどのように感じているのかを、デジタルを使って把握することがその狙いだった。当時から「購買データ」よりも、「行動データ」が重要だと考えていたのだ。
これからやってくるwithコロナの時代は、コンタクトレス、キャッシュレスがますます進むと奥谷氏。商品を直接手に取る機会はさらに減少し、顧客は商品選択と購入にかける時間をできるだけ短くすることを考えるようになる。つまり、一度購入した商品やサービスの体験に価値がなければ、2回目はない。継続して利用されるためには、購入後の使われ方を追う必要がある。そのためにはオンラインIDを取得してもらうことが不可欠だ。
顧客とつながることで見えてくる新たな戦略
従来マーケティング戦略を考えるにあたっては、「マーケティングの4P」つまりよい商品(Product)、よい値段(Price)、よいプロモーション(Promotion)、よい場所(Place)が重要であるといわれてきた。
それに対し、奥谷氏は「エンゲージメントの4P」を提唱する。エンゲージメントの4Pではまず、顧客がいるところ(Place)が重要になる。当たり前のように、顧客はオンラインとオフラインを行き来する。PCからネットストアをのぞいていることもあれば、同じ自宅内でもスマホアプリやSNS経由で商品に接しているかもしれないし、直接リアル店舗に足を運ぶこともあるだろう。デジタルを入口とし、こうした行動を連続的に把握する(つながり続ける)ことによって、本来の消費行動が明らかになってくる。これをベースに、商品開発や価格戦略、プロモーション戦略につなげていくべきだと奥谷氏は考えている。
そして、つながり続けるビジネスの究極の形がサブスクリプションモデルだと奥谷氏はいう。オイシックス・ラ・大地は、「おいしくて、安心・安全な野菜を定期的に届ける」ことを事業目的に、デジタル技術を用いたサブスクモデルを実践している。