新型コロナウイルスの影響で店舗に来店して買い物をする文化が大きく変わろうとしている。ECやオンライン接客に代表される非対面による買い物が今後主流になり、接客応対自体がないセルフ店舗や接客応対を行うロボットが多くの仕事を担うようになるだろう。しかし、そんな中でもお客様に必要とされる、愛されるお店は無くならない。お客様が求めているのは買い物で得られる商品だけではないからだ。そこには、親切に対応してくれる一流の販売員が必ずいるはずだ。今回はどうすればお客様に愛されるスタッフの育成ができるかについてお話しする。
差別化ポイントは「人」
これまで地域のお客様に選んで頂くためには近隣の競合店との勝負でした。しかしコロナ禍で一気に進んだ非対面により、競合店は近隣店だけではなくECや食品の宅配など一気に増えました。珍しい食品も海外から直接購入出来るようになり、生鮮品は食宅に、日用品はECサイトが競合となり、品揃え・鮮度・価格で勝負するのは大変困難な状況です。
そんな中、地域のお客様に選んで頂くには専門知識やホスピタリティーに溢れたスタッフの存在に他なりません。しかしそんな人材が溢れているわけでもありません。そんな人材を採用できる幸運を待っていても仕方がないのです。人材は育てるものであるということを忘れてはいけません。未経験で入ってきた人を一流のスタッフに育てるのが店長の大きな使命なのです。
お店は常に忙しく、日々業務に追われる店長には新人スタッフを懇切丁寧に指導する時間は多くないと思います。しかしこれからは考え方を少し変えてください。商品、品揃え、鮮度、価格での勝負は日に日に困難になってきます。そんな中で愛されるお店になるためには人の力が不可欠なのです。
「あのお店はとにかく親切で感じの良い店員さんがたくさんいて、気持ちがいい」「知識が豊富で買い物する際とても参考になる」「あの人に接客してほしい」「また会いたい」。こんな声に溢れているお店は地域のお客様に愛され、支持され続けます。店長はそんな人材を作っていかなければなりません。
そこで大事なことは仕事=作業ではなく、仕事=使命(経営理念。お店の存在目的や価値基準)であるということをしっかりと教える事です。使命を果たす上で効率の良い作業や感じの良い接客が求められるのであり、作業をうまくこなすことが仕事のゴールでは無いことを伝えなければなりません。
しかし、多くの現場では作業を教えることばかりに集中し、使命についてしっかり教育していないのが現実です。教えたい気持ちもあるのでしょうが、実際時間が取れないのでさらっと伝えるにとどまっているのでしょう。
私は職業柄多くの現場スタッフに対し研修を行いますが、自社の使命を知らないスタッフがほとんどです。または聞いたことはあるけど普段は全く意識できていないのが実状です。現場で発生するお客様からの苦情は、使命を強く認識していれば起こり得なかった事ばかりなのです。
無愛想な接客、お客様の通行を邪魔し続ける品出し、荒れた商品棚、チェック漏れによる傷んだ生鮮品など、これらは使命を理解していない現れではないでしょうか? 忙しい現場で教育時間を設けるのは困難な状況であると思いますが、これからはあらかじめ教育の仕組みを作り運用することにより時間を作ってください。
教育は面接の時から始まっています。面接時に地域にとってどんなお店でありたいか、応募者にもお店の使命に共感してもらい、使命を求めることを伝えます。その上で採用を決定する。採用したら、丁寧にオリエンテーションを実施する。最低2時間以上はとり、お店の使命や歴史、組織と役割、ルールなどを店長自ら教えて頂きたいと思います。
その後も作業ばかりを教えるのではなく、使命の元に作業があることを前提に教育を進めて頂きたいと思います。また、教育は一方的な指導ではなく、新人スタッフに対して「この作業は使命と紐付けるとどんなことに注意すべきか」、さらに「お客様に対してどんなことが出来るか」を考えさせながら進めるとより良いでしょう。スタッフを褒めたり、注意するときにも「使命」をベースに行うとより使命が浸透してきます。
その他、定期的な集合研修を実施し、使命に対する再教育を行うとともに、実践事例の共有を図ることで継続して使命を意識できるスタッフが育ってきます。
スタッフの承認欲求を満たす
日々、使命を意識して業務に励むスタッフのモチベーションを高く維持するためには、スタッフの承認欲求を満たすことが必要です。承認欲求は人間誰もが持つ強い欲求で、「認められたい」「必要とされたい」「感謝されたい」「褒められたい」「愛されたい」など、自分は特別で価値のある存在であるということを認識するものです。
人間は承認されるととても心地よい高揚感を得られ、繰り返し同じ感情を得たいという強い欲求に駆られます。仕事上では、スタッフに対して“できなかった仕事”を“できるように指導”し出来たら“褒める”。スタッフの“いい仕事ぶりを日々探し”、“見つけて褒める”。そして普段通りの仕事でも感謝の気持ちを伝える。これからの期待を添える。
この様に、店長はスタッフが出来ない仕事を出来るようにし、仕事を与え、出来たことを褒め、次の目標を与えることが重要な仕事なのです。承認欲求に満たされているスタッフはお客様に対しても良い対応が出来ます。そしてお客様からもお褒めの言葉を頂き、ますますモチベーション高く良い仕事をしてくれるのです。まずは使命を与え、日々承認を行うことを徹底してください。そうすれば地域に愛され、必要とされるお店になるでしょう。