栄枯盛衰の激しい流通業界にあって、2000年代に隆盛を誇り、爆発的な勢いで全国に増えていった商業施設がショッピングセンターである。約32兆円という巨大なマーケット規模を持つものの、近年はその勢いに陰りが見えている。さらに今般の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、全国のショッピングセンターは閉鎖を余儀なくされ、その影響は計り知れない。これからショッピングセンター業態はどこに向かうのだろうか?アフターコロナ、あるいはウィズコロナ時代のショッピングセンターはどのように変革していくべきなのかを本連載では明らかにしていきたい。
2019年、減少に転じたショッピングセンター
ショッピングセンターは全国に3,000か所を超え、売上高総額も32兆円と6兆円を下回る百貨店売上高を大きく凌駕しているにも関わらず、正月の初売りや今般のコロナ禍における小売動向のニュースではショッピングセンターではなく、百貨店の映像が映し出される。学問の世界でも流通業に関するサプライチェーンなどの研究は進むもののショッピングセンター事業のビジネスモデルやその成功要因などを分析された論文など目にすることはほとんど無い。
売上高32兆円と相当な額であるが商業動態統計には百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、ホームセンターと言った単店レベルでは出てくるがショッピングセンターの数字は登場しない。
不思議なものだと思っていた矢先、2019年のショッピングセンターの開業数が発表された。何とそこには「減少」という文字が登場していた。2018年まで順調に増加し3,220か所まで増加したショッピングセンターは2019年、11か所が減少し2019年末時点で3,109か所(図表1)になっていたのだ。
ショッピングセンターの数は(一社)日本ショッピングセンター協会が定めるSC取扱い基準*1によって計測されるが、この基準でカウントすると2019年に開業したショッピングセンターが46か所(図表2)、新たに基準を満たした施設が18か所、計64か所が増加している。
しかし、閉鎖したショッピングセンターが45か所、基準を満たさなくなった施設が30か所あり、計75か所が減少。この増減を差し引きすると57か所が減少(図表3)し、3,209か所となったのだ。
*1 SC取扱い基準:SCは、ディベロッパーにより計画、開発されるものであり、次の条件を備えることを必要とする。①小売業の店舗面積は、1,500㎡ 以上であること、②キーテナントを除くテナントが10店舗以上含まれていること、③キーテナントがある場合、その面積がショッピングセンター面積の80%程度を超えないこと。但し、その他テナントのうち小売業の店舗面積が1,500㎡以上である場合には、この限りではない、④テナント会(商店会)等があり、広告宣伝、共同催事等の共同活動を行っていること
日本におけるショッピングセンター全盛時代は2000年と言われている。それは消費を牽引した人口動態、大店法廃止と立地法の制定、定期借家制度の登場などいくつかの理由があるが、当時、ショッピングセンターは「最強の流通業態」と呼ばれ1991年ピークアウトした百貨店を尻目にその隆盛を謳歌していた時から20年、今やその勢いも薄れ、とうとう減少に転じたのである。
これまで百貨店の閉店を対岸の火事として見てきたショッピングセンターは今まさに自分に火の粉がかかってきたのである。
減少に転じた理由
では、なぜ減少に転じたのか。無数の要因が複合的に絡み合っているがそれらを整理するとおおよそ次の通りである。
- 人口の減少
- 少子高齢化
- 温暖化による消費の変化
- ECの伸長
- 競合の激化と同質化
- サブスクなど新サービスの登場
- スマホなど情報通信費の上昇
- 非正規雇用の増加と収入の減少
- 通勤着のカジュアル化による被服履物消費の減少
- 地価と工事費の高騰
- 商業用不動産の利回りの低下
- 働き手の減少
- 消費者の意識変化
これらを1つずつ解説していてはキリがないので割愛するが、少なくともこの10年、「ショッピングセンター事業にとって追い風になることは何1つなかった」と言っても過言ではない。
コロナ禍の影響
2020年が明けた時、世界が疫病に襲われるなど誰が想定していただろう。誰もが「今年はオリ・パラ(オリンピック・パラリンピック)で盛り上がる」と思い、企業もそれに間に合わせるべく、ビル建設や鉄道建設やイベントの準備を急ピッチで進め、この夏を心待ちにしていたし、ショッピングセンターも多くのプロジェクトが進行していた。ところが例の無い「緊急事態宣言」が発出され、街もオフィスも商業施設も休業に追い込まれ、工事もストップし、世界的にも死者は溢れ、企業倒産も相次ぐ。
ようやく日本では宣言が解除され、平常に戻りつつあるものの以前と同じ生活に戻るには時間がかかることが想定され、合わせて新たな生活スタイルを模索することも求められている。
アフターコロナは、ウィズコロナ
ショッピングセンターはどこへ向かう?
コロナ禍の収束に向かう中、世間では「アフターコロナ」という声も聞こえる。しかし、天然痘のように撲滅されることは想定されず、未だワクチンも治療薬も無い状態でアフターコロナなどあるはずもない。ワクチンも特効薬も開発されている季節性インフルエンザでさえ毎年3,000人の死者を出している。それを考えるとアフターコロナではなくウィズコロナとして我々は生活していかなくてはならないのだ。これまでもインフルエンザの他、O157、麻疹、アニサキスなど細菌やウイルスや寄生虫などが常に我々の周りに潜み、手洗い、うがい、加熱、休養などの対策を取りながら回避しながら共存しているのである。
今後もショッピングセンターや商業施設も同様にこれからと同居することが求められる。ただ、これまでの対策に加え、密接密集密閉を避け、ソーシャルディスタンスを取り、消毒を徹底し、「接触感染、飛沫感染、空気感染、媒介物感染」、この4つを当然のこととして、経営に取り込むことが求められるのである。
では、多くの減少理由とコロナ禍を受けて今後、ショッピングセンター事業はどこへ進んでいくのか、進むべきなのかをこの連載を通して明らかにしていきたい。
次回は、ショッピングセンターのビジネスモデルとは、一体どういったものだったのか、そしてどこに強みを持ち、その強みはなぜ今揺らいでいるのか、それらを明らかにしていくこととする。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。