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東急、体験型NFT 100セットが即完売!デジタルとリアルな渋谷をつなぐ構想とは

「エンタテイメントシティSHIBUYA」をビジョンに新しい街づくりを進める東急(東京都/堀江 正博社長)が、渋谷の街でデジタルとリアルを組み合わせた体験を楽しむことができるNFTを限定販売。初回販売の100セットが即完売し、NFT保有者専用のコミュニティも動き出している。駅周辺では大規模再開発が進み、ニュースが続く渋谷の街を舞台に、東急はNFTを起点に何を進めようとしているのか。NFTサービス「Shibuya Q DAO」でできることや「Shibuya Q DAO」と共に目指す共創型の街づくりについて、東急フューチャー・デザイン・ラボ主査の天野真輔氏に話を聞いた。

Web3.0 スタートアップ企業3社とコラボ

カード型ハードウォレット

 NFTを活用したサービス「Shibuya Q DAO」は、デジタルとリアルを組み合わせた新しいエンタテイメント体験を提供し、一言でいうならば「もっと渋谷を楽しんでもらおう」とスタートしたものだ。

 東急フューチャー・デザイン・ラボ主査の天野真輔氏は、「『エンタテイメントシティSHIBUYA』に向けてさまざま企画が進む中で、新しい技術や概念を使ってどう渋谷の機能をアップデートさせ魅力づけするかを検討した結果スタートしたのが、『Shibuya Q DAO』。渋谷のWeb3.0(ウェブスリー:ブロックチェーン技術を活用した分散型インターネット)のスタートアップ企業3社との協業によって実現した」と話す。

 「Shibuya Q DAO」に参加するには、はじめに参加証となるNFTとカード型ハードウォレットのセットを購入する必要がある。NFTをはじめとするWeb3.0の世界では暗号資産での取引が基本だ。一方で、日本においてはまだまだ暗号資産の普及が進んでおらず、暗号資産は「投機目的の何となく怪しいもの」といったイメージが強い。さらに、NFTのやり取りを行うにはウォレットが必要となるが、このウォレットを開設する手続きが複雑という課題もある。

 そこで、「今回のプロジェクトでは、初心者でも簡単に使えるように、まず日本円での購入とし、ウォレットアプリを準備する必要がないカード型ハードウォレット『POKKE』とNFTをセットで販売することにした。『POKKE』は、パートナー企業であるPBADAO社が提供するNFCチップが内蔵されたカードで、このカードをスマートフォンにタップすると、わずか3タップとパスワードの入力でNFTの受け渡しが可能になる」

「Shibuya Q DAO」販売イベントの様子

 販売したのは、2023年11月に開催された「Shibuya Q DAO」のミートアップの場。1セット8,800円で限定80セットを用意したところ、その場で即完売する盛況ぶりだったという。翌日に10セット、翌々日に10セットもオンラインではなく対面にこだわって販売し、合わせて100セットがすぐに売り切れた。

 天野氏曰く、「これまでNFTを購入したことがない人をターゲットに、事前にXのみで情報発信を行ったが、実際に購入いただいた方の8割以上はNFTに触れた経験がある人。20代後半から40代の男性が中心で、残りの2割が『初心者だがおもしろそうなのでやってみよう』という方や女性だった」

3人集まると「有名ピザ店のピザ1枚無料」

Bucket Bearのアート(左)がデコレーションされていく(右)

 実際に、「Shibuya Q DAO」では何ができて、どのような楽しみがあるのだろうか。

 購入した段階のNFTは、渋谷にゆかりのあるアーティストが描いた、バケツを被った茶色い熊のアート(Bucket Bear)作品だ。「たまごっちを育てるように、デジタルペットを育てるというゲーム要素も楽しんでもらいたい」と天野氏が話すように、イベントやプロジェクトに参加するごとに、Bucket Bearのデザインが変化、進化していく。

利用するとピザスライスが変化する

 このNFTが「Shibuya Q DAO」の参加証としての役割を果たし、DAOメンバー限定のイベントなどに参加できるほか、NFTと商品が交換できたり、NFTを提示することでさまざまな特典が受けたりできるようになる。最大の目玉となるのが、「ワンスライス NFT」だ。

 「渋谷の特定店舗やスポットに設置されたQRコードを読み込むと、ピザ1切れが描かれたピクセルアートのNFTがもらえる。このピザ1切れのNFTを持った人が3人以上集まると、渋谷区内に2店舗ある人気ピザショップ PIZZANISTA! のピザが無料で食べられるという特典を用意している」(天野氏)

 ポイントは、「3人以上」集まる必要がある点だ。ここに、「エンタテイメントシティSHIBUYA」をビジョンに掲げる同社の狙いがある。

 天野氏は「ワンスライスNFTには、『Shibuya Q DAO』のコミュニティメンバー同士が交流して仲良くなるきっかけにしてほしい、という願いを込めている。一人で食べるだけでは何も生まれないし、かといって初対面で2人きりというのも少し気まずい。最低3人で集まってもらい、美味しいピザを食べながら新たな交流の場としてもらいたい」

謎解きをしながら渋谷のモニュメントなどを巡る

 そのほか、渋谷の街にちなんだ謎解きをARで楽しめたり、渋谷区内の落書き消去活動に参加するとNFTアイテムを獲得できたり、カフェでドリンクサービスを受けとれるといったさまざまな特典が用意されている。

人と人が「渋谷」を起点にリアルに交流する仕組みも

 「Shibuya Q DAO」は、その名の通りDAO(自律分散型組織)として会員コミュニティとしても機能させ、メンバー同士の交流を促して渋谷の活性化につなげようとしている。

 「一般的にDAOではDiscordというチャットアプリを使うケースが多いが、多くの人が使い慣れているLINEのオープンチャットにメンバー限定のグループをつくってNFT保有者100人の交流の場としている」(天野氏)

知らない人同士が顔を合わせることも

 「ワンスライスNFT」を獲得した人が、「明日ピザを食べに行きませんか?」と発信するなど、すでにデジタルからリアルな関わりへと発展し始めている。

 「今回購入してくれた皆さんの動機は、NFTというデジタル上の世界のものを、渋谷というリアルな街と紐づけていくところに他にはないユニークさを感じてくれたのだと思う。これまでNFTというと短期間での利益を目指す投機目的のものが話題となってきたが、Shibuya Q DAONFTはあくまでも体験型。リアルな人と人の交流につながるところに意味がある」

「参加型」「共創型」コミュニティとして活性化

東急フューチャー・デザイン・ラボ 主査の天野真輔

 NFTを保有して「Shibuya Q DAO」のメンバーになることで、これまでにはない新しい体験を楽しみ、メンバーとその体験を共有したりリアルに交流したりできる。「Shibuya Q DAO」を通じて東急が目指していることは何なのか。

 「たとえば、メンバー限定の渋谷の街の謎解きをARで楽しむことによって、渋谷の魅力をもっと知ってもらい、滞在時間、消費が増えること。さらに、新たな渋谷のスポットを知った人が情報を発信し、渋谷のプレゼンスが上がっていくことで、東急グループが運営するサービスへの売上に寄与することを期待している」(天野氏)

 マネタイズ面はまだまだ手探りの状態だが、アイデアはいくらでもある。訪日観光客が多い渋谷なので、外国人向けの「デジタルお土産」としてNFTを販売することなども検討しているという。

 さらに、「Shibuya Q DAO」は参加型・共創型のプロジェクトであることも強くPRしている。ゆくゆくはコミュニティを巻き込んだサービスの開発も進めていく考えだ。

 「運営側がイベントを企画しコミュニティメンバーに提供するだけでなく、参加メンバー発のアイデアでイベントや企画を行ったり、モニター的な役割を担ってもらってより良いサービスにつなげるなどしていきたい」(同)

 追加のNFTは、2024年春頃に販売される予定だ。