第65回 ショッピングセンターが小売に取り組む5つのリスクと、2つの判断材料とは

西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)
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ショッピングセンター(SC)事業は、今の収益モデルでは人口減少と少子高齢化に伴いシュリンクする。SC事業に関わらず、消費市場をターゲットにしている限り、市場は縮小し競争は激化、淘汰が進む。そのため既存事業をさらに強化するのか、もしくは、収益の多角化を進めるのか、2つに一つになるわけだが、これまでもSCは収益の多角化を図った分野がある。それが自社SC内に小売店舗や飲食店舗を直営形式で出店する活動だ。だが、この活動にはリスクをはらむ。今回はそれらを明らかにした上、留意点を指摘したい。

itsarasak thithuekthak/istock
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SCが店舗事業に取り組む動機

 SC事業者が自らのSC内で店舗を始める理由は、

  • テナントの商売を見ているうちに「自らでやってみたい」と思うケース
  • 賃借人である「テナントの気持ちを理解するため」と店舗ビジネスを始めるケース
  • 出店を依頼したテナントから断られ、自らがFC(フランチャイジー)になることを余儀なくされるケース
  • 新規ビジネスとしてFCビジネスに取り組むケース。
  • SC内の一等立地のポテンシャル(収益性)を内部化したいと考えるケース

 など、いくつかのパターンがあるが、残念ながらそううまくいくものではない。過去、SC企業が始めた本屋やメガネ屋や時計屋が自立し、多店舗展開したケースはあるが非常に希であり、ここには以下の5つのリスクが存在する。

リスクその1:市場の縮小

 冒頭指摘したように人口減少が進めば消費市場は減退する。特にSC内で扱われる商材の多くは、カジュアル衣料のような廉価な消費財であり、最も影響を受けやすい。その縮小する産業に今、飛び込むことはリスクだろう。

リスクその2EC

 SC内で取り扱われる商品は、カジュアルで廉価で日常性の高い最寄り品が圧倒的に多い。高額な単価で丁寧な接客が必要な買い回り性の高いものであればEC化はされにくいが、SC内の商材はEC化されやすい。

 今、コロナ禍も落ち着き消費が戻ってきているが、百貨店の売上・客数の戻りがSCを上回るのは、ここに理由にある。SCで売っているものはコロナ禍によってEC化が促進されてしまったのである。

リスクその3:同一市場への投資

 小売業は、SC事業と同じ消費市場がターゲットであり、この同一市場に複数のビジネスを持つことはリスクである。近年、百貨店が構造改革と称し、不動産賃貸業に転換(SC化)する活動も増えているが、これも同様に消費市場の中で消化仕入れ契約から建物賃貸借契約に代替するに過ぎず、やることは同じである。

 「賃貸化」は、コストカットによって一時的には収益に好影響を及ぼすが中長期的にはこれまでと何も変わらない。

 縮小する市場において、どれだけ工夫しても絶対額が縮小すれば将来は明るくないことは

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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