インタビュー:地域振興の志を共有なら他地銀と統合も=山口FG社長
[下関市 15日 ロイター] – 山口フィナンシャルグループの吉村猛社長は、ロイターのインタビューに応じ、日銀の異次元緩和で厳しい収益環境が続く中、融資の拡大とともに新ビジネスの立ち上げに積極的に関わることで、地域経済の活性化に取り組む方針を示した。地域経済の発展という志が共有できれば、他の地方銀行との経営統合も図っていくと述べた。
山口FGは、広島県を地盤とするもみじ銀行と2006年に経営統合して発足。11年には北九州銀行を設立し、傘下に山口銀、もみじ銀、北九州銀の3銀行を擁する。
17年10月に山口県産品を大都市圏に販売する「地域商社やまぐち」を設立するなど、地域社会の振興のためにさまざまな施策を行っている。
今年7月には山口銀の油谷支店をスペイン型バルを併設した新型店舗にリニューアル。固定費削減のため、店舗を減らす地銀とは一線を画す。吉村社長は、顧客とじかに接する店舗を残す重要性を指摘した。
吉村氏は1983年に山口銀行に入行。山口銀の総合企画部長、常務取締役徳山支店長を経て2016年に山口銀頭取兼山口FG社長。18年6月から山口銀会長兼山口FG社長。
インタビューは14日に行われた。主なやり取りは以下の通り。
――日銀の異次元緩和から6年。収益環境をどうみるか。
「決して銀行にとっていい環境だとは思えない。地元もある程度元気になっているので、政策自体にどうのこうのというのは全くない。この状況で、ある程度勝ち残れる体制にすることができれば、次世代にも安定した経営基盤を残すことができるだろうと思って、いろいろ取り組んでいる」
――勝ち残るための施策は。
「本業は本業でしっかりやっていく一方で、本業を展開していく地元をいかに元気にしていくかという施策も、できることを見つけてやっていかなければならない」
――本業である貸し出しの規模拡大も同時に目指す。
「どうやって規模を拡大していくかといえば、(地域振興が)回り回ってというのが1つと、提携や経営統合をチャンスがあれば図っていく。志が一緒であれば図っていく」
――地域振興のための取り組みを積極化している。
「明治初期には、地域の産業を興すことも銀行の役割の一つとしてやっていた。そのDNAを思い出して、もう一度、地域産業振興をある程度リスクを取りながら取り組むのが、これからのわれわれのやり方だと思っている」
「漁業では、下関の名物にウニがあるが、ウニが海藻を食べ尽くしてしまって採れ高が今は芳しくない。当社がプロデューサーとして、地域の企業や地域の大学教授を巻き込んで、ウニの養殖ビジネスを育成していく。農林水産業や観光業、空き家対策など地域の課題は結構ある」
「それぞれの施策は、3年から5年、長くて10年のスパンで考えている。3年から5年で、ある程度事業として成立させていく」
――提携相手として、どの地域の地銀に注目しているか。
「一般論としては、地続きの方が良い。飛び地ではガバナンスがなかなか大変なのではないかと思う。ただ、同じ『志』の方がいないと無理だ。積極的に経営統合を仕掛けていくつもりは全くない」
「それよりも、金融異業種との連携も含め、例えば北九州地域の保険は山口FGで取り次ぐ、個人ローンも山口FGに全てやらせてもらうといった形で、顧客の金融ニーズに占める当社のシェアを上げていく。例えばフィンテック企業と組むことも考えないといけない。その上に、エリア的な規模拡大の提携、業務提携、資本提携などの話が出てくればさらに望ましい」
――志を一緒にするとは。
「銀行の収益ありきの統合ではなく、地域を活性化するために手を組む、というところとであれば話はあり得る。地域を元気にするために、いろいろなノウハウやネットワークを共有しよう、という話ができれば非常に良い」
――山口銀の油谷支店にスペイン型のバルを併設する。支店をできるだけ減らす地銀もあるが。
「店舗を減らすこと自体はコストカットにはなるが、われわれはそういう戦略は取らない。顧客接点の場はできるだけ残したい。デジタルの顧客接点はこれから絶対やっていかないといけないが、リアルの接点場所を減らすほどうまくいくとは思えない」
「来客が減り、銀行の機能はこれからどんどん小さくなる。例えば今持っている土地の3分の1で済む、ということになる。では店舗スペースを顧客のためにどう使うか。立地が大きい支店が多いので、空いている店舗スペースを提供し、古くからの銀行のイメージのない場所を作る。そこで銀行手続きや相談や新しいデジタルの説明も受けられる、というアクセスポイントとして維持したい」
「今280ぐらいの支店がある。すべて、どういう形にするか見直している。銀行員のマインドを変えないと、地域活性化といっても銀行主導でやるのは難しい」
(和田崇彦、木原麗花 編集:田巻一彦)