「時代に遅れ続ける」だから持続可能 京都の老舗鞄メーカー「一澤信三郎帆布」悟りの経営とは
製造マニュアルなし! 技術力より人間力重視の職人採用
開発計画、売上目標、販売ノルマ…。経営目線でみたとき、マストといえる数値目標のようなものが一切ない。これも、同社の大きな特徴だ。加えて、同社には製造マニュアルさえない。その理由は、「製造マニュアルに頼ると、知恵と工夫が生まれないから」。もはや、一製造業者として時代に抗うというより、一線を画し、我が道を突き進んでいるーーそうとしか思えないほど、効率化や拡大が常識のメーカー経営の王道から同社はかけ離れている。
「少量多品種の私たちのかばん作りは手間ひまがかかり過ぎて、大量生産には向いていない。コンピュータミシンも使わない。しかし、このようなやり方だからこそ、職人たちの技術は日々向上する。職人たちは何よりも、すべて自分たちで仕上げることの責任と達成感を感じながら、楽しく鞄づくりをしている」と胸を張る一澤社長。それでいて、職人の採用では、ミシンの使用歴や手先の器用さを一切チェックせず、人間性を重視しているというのだから、もはやその経営はある種の悟りの境地に辿り着いているといえる。