ダンハンビー最高経営責任者 ギオーム・バクーヴィエ
「日本のデータビジネスを変える」総合商社とタッグを組み日本事業に本腰
英小売最大手のテスコ(Tesco)傘下で、顧客データの分析と、それに基づいたマーケティングビジネスを展開するダンハンビー(dunnhumby)。英国のみならず、世界各国の名だたる企業にサービスを提供する同社だが、近年は日本での事業展開にも積極的だ。来日した同社のギオーム・バクーヴィエCEOに、今後の戦略について話を聞いた。
約30カ国で事業を展開、三井物産と日本市場を深耕
──まずは、ダンハンビーの現在の主な事業内容について教えてください。
ギオーム ダンハンビーは1989年に英国で創業して以来30年にわたって、カスタマーデータサイエンスプラットフォームとして知られてきました。最先端のデータサイエンスや統計学の手法を応用して、企業が保有するさまざまな顧客データを効果的に活用できるようにし、企業がお客さまへの理解を深め、事業運営においてお客さまを中心に据えた意思決定ができるようサポートしています。
とりわけ、われわれが得意とする業種は小売業と消費材メーカーです。小売企業は、POSデータから得られる購買履歴、ポイントカードに登録されている会員データ、ウェブサイトやモバイルアプリでの行動履歴データなど、多種多様なデータを大量に保有しています。これらの膨大なデータを適切に加工し、解析することで顧客インサイトが抽出でき、「その企業にとってのお客さまは誰か」「お客さまはなぜ来店したのか」「店舗で何を購入したのか」「その動機は何か」といったことが明らかにできます。
──解析したデータをもとに、どのようなサービスを提供していますか。
ギオーム ダンハンビーでは、データ解析によって得た顧客インサイトをもとに、小売企業の商品政策(MD)や価格戦略、プロモーション施策を支援するソリューションを提供するほか、ポイントプログラムの構築や顧客データの収益化などもサポートしています。小売企業が保有する顧客データを解析し、商品開発やプロモーション戦略に役立つ情報として仕立て、メーカーや供給事業者にこれを提供することで、小売企業は顧客データから収益を得ることもできるのです。
──日本では、ダンハンビーはCRM(顧客関係管理)に強みを持つ専門企業として知られていますが、実際はさまざまなプロダクトやサービスを展開されているのですね。
ギオーム たしかに、ダンハンビーは95年に英国の小売最大手テスコのポイントプログラム「クラブカード」を手がけたことで世に広く知られるようになりました。CRM、とりわけポイントプログラムで実績を上げてきたのは事実ですが、これは事業分野の一部にすぎません。
──そんななか日本の大手商社、三井物産とタッグを組まれました。その背景と今後のねらいについて教えてください。
ギオーム 現在、日本を含め、約30カ国で事業を展開しています。日本には数年前に進出しましたが、日本市場での事業拡大を加速させるべく、2018年10月、三井物産との合弁企業「ダンハンビー・三井物産カスタマーサイエンス㈱」を設立しました。カスタマーデータサイエンスの分野で強みを持つダンハンビーと、日本で確固たる地位を持ち、日本市場に精通する三井物産との強みを補完し合うことで、日本のデータビジネスを変えたいと考えています。
日本では、まず、大手小売企業や消費材メーカーを主なターゲットとして事業を確立し、いずれは中小の小売企業やほかの業種にも幅広く展開していく方針です。
「データという“原油”を“精製”し、“燃料”として使えるようにするのがわれわれの役割だ」
データ解析専門の人材育成も視野に
──日本の小売企業におけるデータ活用の現状をどのように見ていますか。
ギオーム 日本の小売業界においても「データは戦略的な事業運営において重要だ」という認識が高まっている一方で、「現時点ではデータを十分に活用できておらず、もっと学ばなければならない」との課題も認識されているようです。ただ、すでに多種多様なデータは収集できている一方、データ活用のためのソフトウエアやツールの実装、データ解析に長けた人材の採用や育成への投資は十分でないように見受けられます。
データサイエンスや機械学習の分野では、データが多種多様で大量であるほど、精度は高まり、大きな成果が得られます。日本の多くの小売企業はすでに多種多様なデータを大量に保有していますが、これらのデータはいわば“原油”のようなもので、そのままでは使えません。これを“精製”して“燃料”として使えるようにするのがダンハンビーの役割だと考えています。