2019年1月、テーブルマークホールディングスを解散し、新体制での事業運営をスタートさせたテーブルマーク。「『食』の世界をリードし、お客様支持率No.1の存在となる」をグループミッションに掲げる同社はどう進んでいくのか。新たな舵取り役を担う香川雅司社長に、今後の成長戦略を聞いた。
人口減少時代でも主食市場は伸長拡大
──まずは、これまでの業績を振り返りながら、新体制での抱負を聞かせてください。
香川 当社は今年創立10年目を迎えます。複数の事業会社が統合してできた会社であり、当初営業利益面では赤字スタートでしたが、今では安定的な黒字化に成功しています。しかしながら、2018年は原材料費高騰に伴い減益。非常に厳しい年でした。
そうしたなか、テーブルマークホールディングスを解散し、当社は組織再編によってJT(日本たばこ産業)の食品事業企画室の下につくことになりました。これにより、これまで以上に戦略と執行を一体的・自律的に運営できる体制を構築しましたので、19年はしっかり収益を確保していきたいと考えています。
──マーケットの現状をどのようにとらえていますか。
香川 私どもの商品は主食が多いのですが、冷凍うどんにしてもパックごはんにしてもコモディティ化が進んでいます。昨年、一部の家庭用商品の値上げを実施しましたが、価格に対する消費者の認識を考えると、今後単純に値上げすることは難しいでしょう。
とはいえ、市場自体はまだまだ大きくなると思っています。人口減少時代を迎えていますが、団塊世代が後期高齢者となる25年までは世帯数は増えていくという調査結果もあるので、主食となる冷凍うどんやパックごはんは喫食機会が増えていくとみています。当社調べでは、パックごはんの購入者数は、冷凍食品購入者数と比べると1割程度という結果も出ています。
昨今、パックごはん市場は拡大傾向にありますが、こうした調査結果を鑑みると、ヘビーユーザーの購入頻度増によるものと言えるでしょう。したがって、ターゲットとする消費者と、それぞれが喫食するオケージョンを細分化し、展開していけば、市場はさらに伸びる可能性があると見込んでいます。
──まだまだ余白があるということですね。確かに、米の売場が縮小化するなか、パックごはんの売場を拡大させている食品スーパーも見受けられます。
香川 一世帯当たりの人員が減っているだけに、わざわざ生米を買って、炊飯器で炊いて食べるよりも、できあがっているごはんを買って食べる人が増えているということでしょう。「炊く」から、「パックごはんでレンジ」へ「使い方(調理法)のシフト」が起こっています。かつて「チルドうどん」から「冷凍うどん」へ「温度帯のシフト」があったような「シフト」が、今後お米においても起こっていくものとみています。市場が拡大伸長すると考える背景には、そうした理由があります。
付加価値型のワントレー商品が好調
──19年度はしっかり収益を確保したいとのことですが、どのような営業戦略を考えていますか。
香川 収益の柱として大きく3つを考えています。1つめは、テーブルマークにとって強い品群である冷凍うどんやパックごはんなどに資源配分し、強化していくこと。
2つめは、そうした強い品群のボトムライン(利益)を上げることです。昨年、新潟県の魚沼水の郷工場の敷地内に約87億円を投資して、最新鋭の設備を導入した冷凍うどん専用工場を稼働させました。全製造工程を自動化することで、人手不足問題に対応するとともに、生産性と品質の向上を実現。結果としてロスを下げています。つまり、トップライン(売上)とボトムラインを同時に上げることで、全体として大きく増益させるという戦略です。
3つめは付加価値型商品の開発です。その1つが、2、3年前から強化に取り組んだワントレー商品。トレー入りでお皿がいらず、味付きで具材も入っているので、外袋のままレンジ調理で手軽に喫食することができます。しかも1人用なので、ターゲットやオケージョンに合わせて、さまざまな商品を投入しています。おかげさまで、ワントレー商品は好調に推移しており、当社の調べでは2ケタ近く伸びています。3月1日には春夏の新商品として、独身男性をターゲットに、夕食というオケージョンを想定した「讃岐麺一番 肉ぶっかけうどん 大盛り」を投入しました。
──ワントレー商品において、とくにニーズの高いターゲットはありますか。
香川 やはり女性、詳しく言うと、有職女性です。有職女性といっても、働くママもいれば、シングルの人もいる。そうなるとそのニーズは違ってくるので、それぞれに合わせた商品を投入していかなくてはなりません。それこそが付加価値化だと考えています。
──商品のブランディングについては、どのような考えで行っていますか。
香川 私どもはマーケティング施策をM施策、セールス施策をS施策と呼んでいますが、M×Sの施策が大事だと考えています。単にテレビCMを打てばいいというのではなく、そのタイミングに合わせて、エンドのお客さまにきっちりと伝えていく。そうしたM×Sの施策によって、消費者にしっかりとリーチしていく必要があります。
当社は創立10年目ということもあって、まだ旧会社のブランドが強いところがあります。したがって、「テーブルマーク」というコーポレートブランドを押し出すのではなく、まず商品のほうからブランドを育成し、「テーブルマークって、こういう商品をつくっているんだ!」と消費者に認識してもらう。今はそういうステージにあると思っています。
チャネル施策の1つとしてマルチパッケージ化を実現
──チャネル政策については、どのような考えで行っていますか。
香川 BtoCについていえば、プレイヤーが多いだけに、それぞれのチャネルに対してきめ細かく手を打っていく必要があります。それが大前提ですね。
今後、同じ商品であっても、総合スーパーのように売場の広い大型店と、ドラッグストアなどのように限られたスペースの小型店とでは、パッケージを変えていく必要があるのではないかと考えています。そのトライアルとして、今春、「さぬきうどん3食」でマルチパッケージ化を実現しました。売場に合わせて、縦に置いても横に置いても商品が認識できるパッケージデザインです。縦に陳列できるということで、従来品では3フェースしか置けなかったのが5~6フェースも置けることから大変好評です。シリーズとして売場を形成することができ、存在感が出たことで、お客さまに手にとっていただけるようになり、配荷率も上がっています。
──冷凍食品の技術革新には目覚ましいものがありますが、今後、どのような新商品を考えていますか。
香川 現在、注力しているのは、主力の麺、パックごはん、そしてお好み焼きやたこ焼きといったスナック類の3カテゴリーです。とくにパックごはんについては、災害時に非常用として需要・認知が高まり、それをきっかけに伸長していることから、暫くは日本の市場に特化して付加価値化を図っていきたいと考えています。1つは環境に配慮したもの、もう1つは災害時でもおいしく食べられるもの。この2つをテーマに技術開発を進めています。
スナック類については、今年、大きな動きがあります。「ごっつい旨い」シリーズが誕生して今年でちょうど20周年になります。また、5月2日を「ごっつの日」として日本記念日協会に登録しました。これに伴い、パッケージもリニューアルし、さまざまなかたちで店頭を盛り上げていく予定です。
──最後に、香川新社長のミッションを教えてください。
香川 今年1月の組織改正で、海外事業推進部という組織をつくりました。当社の事業はあくまでも日本市場をメーンに考えていますが、市場がシュリンクするなか、やはり海外に目を向けていく必要があります。そのために、今年から人員と時間を配分し、リサーチを始めました。次の世代のために、新しい市場の起点をきちんと置いておきたいと考えたからです。こうした海外事業はもちろん、新たな事業の種を蒔いておくことが、私のミッションの1つだと考えています。
また、既存事業をさらに伸ばして、強くしていくこと。そして、次の時代を担う人材を育成すること。テーブルマークというグループ会社が今後も存続していくために、3つのミッションをやり遂げたいと思っています。