リアルでもネットでもNO.1を目指す!西友の挑戦株式会社 西友の大久保 恒夫 氏
株式会社西友 代表取締役社長 大久保 恒夫 氏 |
大競争時代に活躍している小売企業のキーパーソンに、業界を勝ち抜く戦略を語っていただく『小売業 キーパーソンに聞く!』は今回で第6弾となる。ゲストに招待するのは、来年に創業60周年を迎える西友の代表取締役社長・大久保恒夫氏。同社はこれまでウォルマート傘下で、EDLP(毎日低価格)を軸に圧倒的な低価格を強みとしていた。21年3月にウォルマート保有株式の大半が楽天グループとKRRに移行して以来、低価格以外の付加価値を高めるべく、様々な改革を進めてきた。大久保氏はユニクロや良品計画をV字回復に導いてきた「小売のプロ」。改革の現在地と今後の戦略について伺った。
低価格は当たり前。それ以外のすべてのニーズに低価格で応える
コロナ禍のおうち時間が増え小売業界に追い風が吹いた時期もあったが、現在、そうした特需は収束に向かい、各社で値引き合戦が生じたことから業績悪化に苦しむ企業が増えた。私は、同じ商品を低価格で販売するだけでは、新たな価値を生むことはできないと考えている。西友の基本方針であるEDLPを強化していく方針は変わらないが、Local (地域に密着)、Value(お客様ニーズに即した価値提供)、Innovative (革新的企業)、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速させ、リアルとデジタルの融合を実現する。ひいては、国内トップクラスの OMO リテーラーを目指す。また、世界でも有数の美食国家である日本において、「おいしい」「簡便」「健康」の3つのニーズにも、低価格で対応していく。その上で重要になってくるのが、商品力と販売力の2本柱を強化する「商販一体」による売場づくりや新たなニーズへの対応だ。
生産段階まで踏み込んで商品開発する
そもそも、小売業では利益を出しにくいのが現状だ。第一、モノが売れない。戦後の高度成長期にあった日本は、商品を店に並べれば飛ぶように売れたが、成熟期である令和時代、ほしいモノはすでに手に入れた状態だ。また、ウクライナ情勢などで、昨今の原価高騰も喫緊の課題であるが、当面は、価格を据え置く方針で進んでいく。ナショナルブランドの値上げは避けられないとしても、プライベートブランドは改善の余地があるためだ。
西友の商品で評価が高いのが、プライベートブランドの「みなさまのお墨付き」。事前調査で8割の方に支持してもらえないと商品化できないという基本方針を貫いていることもあり、顧客満足度が高く、グロサリーの売上の約20%を占めている。今後、いかにして利益を上げるかを考えたときに、商品開発をする際、生産・原材料段階まで踏み込みSPA(製造小売業化)を強化することが極めて重要だ。生産効率、物流効率、在庫効率を向上させる調達戦略を推し進めていく。
また、小売業はデジタル・マーケティング業を目指すべきであるというのが私の考えだ。単に“DX化を進める”だけで満足せず、データを分析することによって、店の棚割りシステム、自動発注、販売計画といった業務改善にも活かしていく。また、お客さまのニーズを可視化することで、ゆくゆくは個店対応、時間帯別対応なども可能になると考えている。
ローカル商品を強化。各エリアに采配を持たせる人材育成を
これまで西友は、全店舗で同じ商品を売ることで低価格を実現してきた。一律固定的であれば、効率的なオペレーションも可能となるからだ。しかし、季節によって旬な食材が変わる日本は、食文化が豊かであり、また、地域差も大きい。醤油で言うと、九州の醤油は甘いが、福岡県内でも地域差があるほど、食に対する意識が高いのだ。こうした食のニーズに小売業が対応していかなければならないとすれば、地場の商品部に采配を持たせ、地域性を活かした仕入を強化すべきだろう。生鮮食品を中心に、およそ2割は「ローカル商品」を調達するよう改革し、販売力を強化する上で、従業員の意識改革も強化中だ。全国各地の店舗で働くアソシエイト(従業員)は“作業員”ではない。地元のお客さまのことをよく知り、価値を提供できるという点で、極めて重要な人材だ。私は、店舗に足を運ぶのが好きなので、地域のリーダーやSVらを対象に、商いを学ぶ塾を開講し、とてもよろこばれている。「自分で考えていいんだよ。それが商売の楽しさなんだ」と伝え、それと同時に、アソシエイトに対する E ラーニングを強化し、教育においてもデジタル化をすすめる。リアルとデジタルの両軸で、商品力と販売力の基礎になる人材育成にも力を入れていく。
OMOリテーラーを目指す。キーワードは”融合”
西友は、2021年3月に新経営体制を発足させ新たな歩みを始めた。株主である楽天の協力を得て、楽天経済圏を活用したデジタル・マーケティングを強化し、「楽天西友ネットスーパー」の売上は既に業界トップレベルの水準にある。店舗出荷と倉庫出荷をハイブリッドで行っており、楽天との連携強化でネットスーパーの基盤を一段と拡充し、2025年を見据えた中期計画では、店舗とネットの売上を合算して9000億円規模(ネットスーパーの売上1000億円以上)、営業利益率5%以上を基準とし、これを達成したい。なお、株主構成の変更に伴い、情報システムをウォルマートのシステムから切り離し、リアルとネットを融合するOMO を加速化。より柔軟な西友独自のシステムを構築していく。
こうしたさまざまな努力の結果、21年度は、過去16年間で最高の利益を記録した。我々の戦略が正しかったと証明されたのだと自負している。来年、西友は創業から60年を迎える。長い年月をかけて積み上げてきたEDLP戦略という強みのもとで確立してきた業界トップクラスの価格競争力に加え、西友に関わるすべての方々に「西友があって本当に良かった」と思っていただけるよう日本を代表するOMOリテーラーを目指す。
各プログラムの詳細
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