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SMの生き残りの選択肢は限られてきた=CGCグループ代表 堀内淳弘

わが国最大の小売業主宰のコーペラティブチェーン(協業組織)、CGCグループ(東京都/堀内淳弘代表)。2012年4月1日現在、総加盟企業数は225社/3715店舗、グループ総年商は4兆2276億円に上る。近年、CGCグループ加盟企業同士が経営統合する動きが相次ぎ、業界再編の“台風の目”となっている。堀内代表に聞いた。

3000億円規模でまとまるか経営統合しか道はない

CGCグループ代表 堀内淳弘 ほりうち・あつひろ 1946年東京生まれ。69年流通経済大学経済学部卒業、同年東急ストア入社。75年シジシージャパン入社。80年取締役社長室長。85年専務取締役。91年代表取締役社長。2007年CGCグループ代表に就任。

──近年、食品スーパー(SM)業界ではM&A(合併・買収)が頻繁に行われています。少子高齢化、人口減少を背景に経営破たんする企業も増えており、SM企業各社はなかなか次期成長戦略を描けません。

堀内 そうですね。あと50年もすれば小売業の企業数は半分になってしまうのではないでしょうか。人口減少は深刻な問題です。

 大手製造業の大半は生産拠点、営業拠点を海外に移転するでしょうし、体力のある大手小売企業もそれに続くでしょう。実際にそういった動きは加速しています。

 ただ、われわれSM企業は地域に密着する地場産業、生活産業ですから、人口が減って商売が成り立たないと言ってもおいそれとは人口の多いエリアに引っ越すことはできません。地方の過疎地であっても、地域になくてはならない店である限りはなんとか営業を継続することが使命だからです。

──しかしながら、とくに地方ではSMの経営を取り巻く環境は厳しさが増す一方です。

堀内 そのとおりです。だから中小のSMは、経営統合するなどして企業規模を大きくしていかない限り、生き残れません。

 たとえば“パパママストア”の場合は、1人の経営者が販売部長、営業部長、商品部長、総務部長や経理部長、人事部長を兼務することができます。ところが、売上規模がある程度まで大きくなって会社組織になると、専任の人員を配置しなければ企業を運営することができません。ですから会社にはそれを維持するための売上高が必要になるのです。

 かねてから私は、SMとして最低限必要な規模として年商300億円、一人前で1000億円、取引先から上得意として扱ってもらえるのが3000億円だと加盟企業に話してきました。

 また、SMならば1店舗当たりの年商は最低でも10億円以上が必要です。生鮮食品を置かず、総菜の店内加工もしない食料品店でも最低5億円以上の年商が必要です。そうでなければ利益を確保することができません。

──4月16日にはアークス(北海道/横山清社長)とジョイス(岩手県/小苅米秀樹社長)が経営統合を発表。遡る2011年10月には、アークスとユニバース(青森県/三浦紘一社長)が経営統合しています。12年4月には伊徳(秋田県/塚本徹社長)とタカヤナギ(秋田県/高柳智史社長)が資本統合し、持ち株会社のユナイトホールディングス(秋田県/塚本徹社長)を設立するなど、CGCグループ内で合従連衡する動きが活発化しています。

堀内 協業が進化したかたちとして、それらの動きはとても自然なことだと思います。

 将来的に、CGCグループの加盟企業の多くは、全国に8つあるCGCの地区本部のもとに結集してそれぞれ3000億円規模でまとまるか、もしくは加盟企業同士が経営統合して事業規模を拡大していかなければ、事業を継続することはできないと考えています。つまり、CGCグループの加盟企業には、地区本部の物流センターごとにまとまるか、会社を統合するかなど、いくつかの選択肢しか残されていないのです。

 その際には、「経営統合するほうがいい」と多くの企業は考えるのでしょうが、業績の悪い企業とは、どこも手を組みたがりませんから、さらに選択肢は少なくなるわけです。

後継者問題がM&Aを活発化させる

──CGCグループは「異体同心」で活動してきましたが、今後は「同体同心」になっていくということですか。

堀内 長い目で見るとおそらく一緒になっていくと思います。というのも、中小SM企業の中には、後継者不在、経営環境悪化などに起因して、「株式をいくらか持って欲しい」といった話が至る所にあるからです。

 それはSM業界にとっては悲しいことです。しかし、年商20~30億円クラスのSM企業には、跡を継ごうという奇特な後継者はまずいないのが現状です。

 われわれの世代は朝早くから夜遅くまでモーレツに働くことが苦になりませんでした。しかし、小規模なSMで、あまり将来性や成長性がないことが明らかであるならば、創業者である親は大変な思いをすることがわかっている事業を子どもに継がせようとはしないでしょう。その意味では、後継者問題がSM業界のM&Aを活発化させている要因の1つと言えます。

 独立経営をなんとか保ってきた創業者は、競争環境が厳しくなっても最後の最後まで頑張るでしょうが、後継者問題は事業撤退の決定打になります。その際は事業を譲渡するか、廃業するかしか選択肢はありません。従業員のことを考えれば、事業譲渡を選択する小売業は多いと思います。

──CGCグループ加盟企業の総年商は4兆2000億円を超えます。堀内代表は、常々、単に年商を足し算した数字を喧伝しても何の意味もない、と話しています。

堀内 はい。先ほど年商1000億円で一人前だと言いましたが、その次はリージョナルチェーンで3000億円、次の段階では年商1兆円クラスの企業規模が必要になります。

 そうなると、国内では5つか6つの企業グループしか生き残ることができないと考えています。

 実際、海外のSM業界に目を向ければ、イギリスは4社、フランスは小売業の上位10社のうち国内勢は5社しかありません。

 わが国では、イオン(千葉県/岡田元也社長)グループさん、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/村田紀敏社長)さんが流通ビッグ2として君臨しています。ほかには、ニチリウ(日本流通産業:大阪府/大桑?嗣社長)さん、生協さん、そしてわれわれCGCグループがあり、食品をメーンに取り扱う大手企業グループがすでに5つもあります。

 家電量販店はヤマダ電機(群馬県/一宮忠男社長)さんがありますし、衣料品では「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)さん、しまむら(埼玉県/野中正人社長)さんといった強力な企業がすでに大きな「パイ」を持っています。最寄品である食品については1社のシェアはまだまだ低いものの、今後は徐々に高まっていくのではないでしょうか。

「安売り競争に明け暮れているのは日本くらい」

──さて、CGCグループは12年に設立40年を迎えます。これを機に創業の理念をあらためて周知する『CGCウェイ』をまとめました。

堀内 そうです。加盟企業の経営トップがこの3年で47人も交代しましたので、協業活動の基本理念を再確認するためです。

 実は、225社4兆2276億円の協業組織というのは世界にも成功事例がありません。企業の連合体が協会をつくり、独自商品の開発を行う例は欧州にありますが、物流や情報システム、販売促進、教育といった協業活動を行っているグループはほとんどありません。

 フランスのコーペラティブチェーンであるルクレールは、基本的に1人のオーナーに1店舗しか持たせません。数店舗を持ち、売上規模が大きくなればなるほど本部に対する発言力が強くなり、運営に支障をきたすためです。ですからフランスでは1店舗当たりの店舗規模・売上規模が巨大化しました。

──欧州ではコーペラティブチェーンを含めた上位小売グループの寡占化が顕著です。日本も同じような状況になっていくのでしょうか。

堀内 そうだと思います。

 大型店が多いイギリスやフランスには、実は「競合店」がほぼありません。自治体がつくる都市計画に沿った出店でないと新規出店できない仕組みになっていますので、簡単には出店できません。だから「競合店」がないのです。

 オーバーストア化傾向に拍車がかかる日本とアメリカのほうが異常と言えます。パリやロンドンの都市部では若干競争がありますが、隣接する店同士が安売り競争をやっているのは日本くらいです。競合する店舗が多ければ優勝劣敗がはっきりしますので、企業の淘汰が進み、競争優位に立つ大手のシェアは高まっていくでしょう。

 アメリカの製造業は、税引前利益率10%を確保できない経営者は失格とみなされます。小売業も5%の利益を出さなければなりません。日本もそうであるならば、卵を1パック10円ではとても販売できません。日本のSMは世界に通用しないビジネスなのです。さらに言うならば「義理と意地の商売」です。

──確かに日本の安売り競争は異常です。安売りする原資がまったくない中で、“出血サービス”しています。

堀内 そうです。そもそも安売りが本当にお客さまにとってよいことなのでしょうか? たとえば、冷凍食品は年中5割引。そうするといい商品開発の芽は断たれるし、商品が育ちません。冷凍食品は、やり方次第では、過去にはなかったような素晴らしい商品をつくることができますし、保存もききますので、これからの小売業界にとって非常に重要なカテゴリーであるにもかかわらずです。

 また、われわれSMは地域密着が基本ですから、地域のお客さまにおいしい食品を提供することも大事です。安売り競争だけでなく、商品の品質をよくすることもSMの使命の1つだと考えます。

──地域の食文化も守っていかなければいけません。

堀内 そのとおりです。たとえばフランスは自国の食文化を守ろうとファストフードの出店をある程度規制しています。脂っこくて食べやすいファストフードが市場にあふれると食文化が崩壊するということで、小学校によっては月に1回、フランス料理のコックさんが料理を振る舞う日があります。

 子どもは「おふくろの味」を小学校低学年までには覚えてしまうそうですが、日本で起こりつつあるように、家族団欒の食事のおかずが大手コンビニエンスストアのプライベートブランド商品だけになってしまったら、わが国の食文化は崩壊してしまいます。だからSMは日本の食文化を守り、地域の食を後世に残していかなければなりません。

不便さを解消して超高齢社会に備える

──今後、SM業界で課題となるのはどのようなことですか。

堀内 やはり、高齢者への対応だと思います。今の団塊の世代(1947年~1949年生まれ)はまだまだ元気ですが、10年後、その世代が75歳を超えたときにこの国がどうなるかというのは相当深刻な問題です。おそらく高齢者の生活は一変するはずです。それにSM業界も備えなくてはなりません。

 私も年をとって不便さを感じることが増えてきました。

 たとえばシャンプーやリンス、ボディソープといったお風呂まわりの商品は、眼鏡をはずしていると違いがほぼわかりません。「シャンプー」「リンス」といった文字は小さくて見にくい。容器の色を変えたりすれば違いがわかりやすくなるでしょう。さらに言うなら、お風呂まわり、台所まわり、洗面所まわりと、それぞれ使う場所によって商品を色分けすることも有効だと思います。これは製造業の皆さんのご協力なしには実現できません。また、売場のゴンドラのゴールデンゾーンは数十年前から高さが変わっていません。高齢者は腰が曲がってきますし、高いところにある商品には手が届かなくなります。

 そういった不便さを解消することもSMの重要な仕事だと考えています。協業活動でも製造業各社さまとの取り組みを強化して超高齢社会に備えたいと思います。