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親和性あり? 出前館×セイノーHDの業務提携に食品小売が参加すべき理由

出前館(東京都/藤井英雄社長)とセイノーホールディングス(岐阜県/田口義隆社長:以下、セイノーHD)は2021年12月、お互いが持つラストワンマイルにおけるネットワークを掛け合わせることにより、デリバリーサービスの日常化を加速させ、社会課題の解決に貢献していくことを目的に業務提携を行った。
両社は、その取り組みのひとつとして、
・出前サービス『出前館』の加盟店向けプラットフォーム
・全国配送が可能なセイノーグループのラストワンマイル網
・『出前館』の集客・媒体力
を強みとした、出店から集客・販促、ラストワンマイル配送までをワンストップで実現する、小売店向けのパッケージの提供を開始する。
同サービスの提供に先立ち、出前館とセイノーHDは2022年4月にDXセミナーを開催。セミナーでは、今後、食品スーパーがネットスーパーに取り組んでいくうえで、頭に入れておくべきポイントが、さまざまな視点から語られていた。以下に、その要旨をまとめていく。

コロナ禍で変化したデリバリー市場

 当日は、新サービスの提供側から、出前館執行役員事業戦略推進本部長の櫻井義大氏、セイノーHDラストワンマイル担当執行役員の河合秀治氏、リテール世界に革新をもたらした先人として、1999年日本初のネットスーパー事業を西友(東京都/大久保恒夫社長)でスタートさせた経歴を持つ、マイレム代表取締役社長の木村愼氏、凸版印刷(東京都/麿秀晴社長)で電子チラシサービス「Shufoo!」を通じてリテールのDX化に関わり、現在は独立、Habitat兼クロス・アンブレラ代表の亀卦川(きけがわ)篤氏が参加した。

 まず、このコロナ禍で、デリバリー市場の環境はどう変わったのか。出前館の櫻井氏は次のように話している。

 「今後、長いスパンで見れば、日本で買物弱者は増えていく。それを見据えて、出前館ではさまざまな準備を進めてきたが、このコロナ禍で意外な発見につながった。

 若年層の世代が“自分が稼働する時間”を“お金に置き換え”て(=タイムパフォーマンスを重要視して)、出前館を利用している。しかも一度利用した人は、その後も、繰り返し使ってくれ、大きな需要になっている。さらに利用だけにとどまらず、届ける側の新しい担い手、および担い手予備軍にもなっている。

 利用エリアについても都心部から、地方都市での新たなニーズとして顕在化している。2020年時点の食品EC化率は『3.31%』(「令和2年度電子商取引に関する市場調査」)だが、3年後には10%を超えてくるという前提で計画をつくっている。普通に進めば10年かかるところが、コロナ禍で一気に早まった」

出前館ユーザーとネットスーパーの親和性

 出前館は掲載店舗数10万店以上、国内最大級のデリバリープラットフォーム。同市場では5割近いシェアをもつといわれている。LINEの公式アカウントは4500万弱あり、彼らの居住エリアや勤務先に、ピンポイントで届けることが可能だ。ユーザーのコアは、30~40代で、65歳以上はほぼいないという。

 一方で、食品スーパーの来店客は、40~50代の女性が多いと言われている。これについて亀卦川氏は、「いまのデジタル社会はテクノロジーの進化が早い。その環境で育った生活者は、リテール事業者の想像を超えて、ITを使いこなし、オムニチャネルを楽しんでいる。従来型の小売店は生活者に置き去りにされつつあり、自前主義での対応は限界にきている」と前置きしたうえで、次のように話す。

 「既存顧客とのマッチングということではなく、自前ではとれない客層にリーチできる、と考えるべき。しかも彼らは、配送料を支払うのが当たり前と考えている。

 従来、とくに食品スーパーでは“少しでも安く”提供することを考えてきた。だからネットスーパーの運営でも、コストが発生しているにもかかわらず、『配送料無料』をうたう(あるいは、配送料無料のバーを設定する)ところが少なくなかった。

 ところが出前館のユーザーは配送料負担を最初から受容している層。物流業、小売業が苦労してきた配送料問題を一気に解決することが可能になる。そのような意味でも、出前館×セイノーHDの業務提携に、小売業が乗る価値がある」

出前館×セイノーHDのネットスーパーの課題は?

 西友でネットスーパーを立ち上げた経歴を持つ木村氏は、その当時、自分一人でピッキングからパッキング、デリバリーまで対応していたという。木村氏は「出前館×セイノーHD」でネットスーパーを展開するにあたってのハードルを挙げる。

 「現在の出前館での食品のデリバリーサービスは、デリカの弁当やパンが中心で、SKUも少ない。SMの品揃えは2万アイテム程度、しかも温度帯管理も、冷凍、冷蔵、チルド、常温などがある。どこまで対応できるのか。品揃えが限られれば、客層を狭めることになる」

 これに対し櫻井氏は

 「まずは、デリバリーで利用されやすい商材に絞って(500~1000SKU程度)、商品マスターを共有。店舗に、日々のメンテナンスの負荷がかからないところから始めて、デリバリーの必要性を感じてもらう。

 ゆくゆくは、POS連携、在庫連携、ダイナミックプライシングなど、すべてやりたいと思っているが、『最初からいっしょにやりましょう』ではお金がかかる。スモールスタートが現実的だろう」と話す。

 また櫻井氏は、「すでにネットスーパーを運営しているところなら、フロント(集客プラットフォームとしての出前館)だけを利用して、ピッキング、パッキング、デリバリーは従来のスキームで、という考え方もある。自前で取れない顧客の獲得ができるかどうかを試してみるのもいい」と語る。

「店内のあらゆるものが顧客接点になる」

 凸版印刷の電子チラシサービス「Shufoo!」の定点調査では「コロナ禍での行動制限の影響で、SMでの平均滞在時間が10分程度短くなり、店内での非計画購買(=ついで買い)が減った。短時間のうちに予定したものだけを買って帰るという、新しい購買行動が定着しつつある」と結論付けている。

 今後、食品のEC化率が高まっていくのは確実な趨勢でもある。そうしたなかで、リアル店舗はどう変わっていくべきか。

 亀卦川氏は「これまで食品スーパーでは、定期的に販促を仕掛けて、昨対比のクリアに腐心するというケースが多かった。しかし、リアルとデジタルを自在に動き、オムニチャネルを楽しむ顧客が中心になるこれからの時代は、販促、売場、仕入れ、商品から、従業員に販売スタッフ、店内のあらゆるものが顧客接点になる」と指摘する。

 同様に、ネットスーパーにおける物流やラストワンマイルも顧客接点のひとつだ。 亀卦川氏は、今回のイベントをこう締めくくっている。

 「これら、ひとつひとつの顧客接点が、デジタルネットワークを介してつながっていくことが重要であり、そうした顧客との関係性を保ち続けてこそ、これからの時代の顧客満足度を高めていくことが可能になる」