ユナイテッドアローズ重松理名誉会長が教える アパレルが閉塞感を打破する方法とは
日本のカルチャーを海外に発信せよ
―日本のファッション市場も、人口減少などで縮小は避けられません。日本のファッションビジネスも、海外に活路を求めたいはずですが、海外市場を開拓するための、何かいい手はないでしょうか。
重松 日本人特有の感性を磨き、それを生かすことを考えたほうがいい。日本人の美意識や精神性は高く、世界に通用すると、僕は考えているし、それは欧米人の多くも認めています。とても難しいのですが、伝統文化を軸に、独自の路線で新しく伝えていきたいと考えています。それを体現しているのが順理庵という店舗です。「おもてなし」という日本ならではのコンテンツがあるように、伝統文化を取り入れた日本らしいファッションも作れると思うのです。
―日本の伝統文化の発展を支援する「日本和文化振興プロジェクト」の副代表理事も、務めておられます。
重松 日本は衣食住の生活文化を欧米から受け入れるだけでなく、もっと自信を持って、自国の生活文化を積極的に発信すればいいと、僕は考えているんですね。例えば、日本は諸外国に比べて、文化交流予算が少なすぎるんです。海外には国策として、日本文化を紹介する公的施設をどんどん増設すべきです。
―ファッションビジネスはそのほかにも、本来はファッションリーダーであるべき若年層の「ファッション離れ」といった、深刻な問題も抱えています。
重松 コロナ禍の前から、その問題は本当に、頭が痛いよね(笑)。IT企業経営者のようなオピニオンリーダーたちが、これでもかっていう感じの、カジュアルでシンプルな服装をしたがるんですから。でも僕は悲観していません。ファッションの流行の波は、きっと繰り返すんです。今の反動でそのうち、テーラードジャケットを着るのが、最先端のトレンドになるかもしれません。
―改めてうかがいますが、ファッションとは何でしょうか。
重松 重要な自己表現の手段でしょうね。Tシャツとパンツだけという格好もある意味、その人のライフスタイルや人生観を表しているわけです。確かに今の時代、僕が若い頃に比べると、ファッションは、生活に占めるウエートが低下しています。しかし、アイコンとしての地位は変わっていません。例えば、ユナイテッドアローズでは、「相手の両親に結婚の挨拶に行くとき、好感度をアップさせる」というコンセプトのスーツを販売したんですが、有名人の謝罪会見でもよく使われる人気商品でした。ファッションは、今でもキャラクターを演出するための最大の武器なんです。
とはいえ、ファッションの存在価値は、それだけではありません。ファッションの好みは人それぞれですが、オシャレをすれば、テンションが上がるでしょう? 服を着替えるだけで、気持ちをリセットできる。東日本大震災の時には、洋服はすばらしいと本当に思いました。ファッションには、人生を豊かにしてくれる力があると、僕は信じています。