バロー戦略(2)
昨日の続きです。
バローは中期5か年計画を《3つの歯車戦略》をもって推進してきた。
3つの歯車とは、①事業規模の拡大、②製造小売業化の推進、③現場力強化により小売業から流通業への質的転換と事業規模拡大の礎をつくる、だ。
事業規模拡大の根幹をなす出店については、さらにアクセルを踏み込む。
2014年3月期には、バロー大垣東店(岐阜県、売場面積2208㎡)、バロー伝法寺店(愛知県、同1720㎡)、バロー下鳥羽店(京都府、同1429㎡)、バロー伊那境店(長野県、同1862㎡)、スマート&デリシャス一宮浜町店(愛知県、同402㎡)、バロー福岡店(愛知県、同1783㎡)、バロー笠原下石店(岐阜県、同1400㎡)、バロー平坂店(愛知県、同1729㎡)のほか、バロー南彦根店(滋賀県)、バロー別名店(三重県)、バロー松任東店(石川県)、バロー牟呂店(愛知県)など13店舗の開設を計画している。
「中部エリアの建築費は15%ほどの上昇でおさまっている。しかも、人件費は相対的に低いので出店計画はこのまま維持したい」、「人口減少社会を前提にビジネスモデルを構築しているが人口増加エリアでの出店も進めたい」(田代社長)ということで、現在の東端となる静岡県から山梨県に向かい、両県から関東にリーチする構想を持つ。
「1つのドミナントエリアの規模は200億円が最低ラインになるので、M&A(合併・買収)も平行して進める」という。
西側エリアは京都府への出店を継続させる。
また、既存店舗の改装にも力を入れる。近年は、簡便・個食化への対応と強化にスポットを当てた既存店舗の改装を推し進めている。
出店強化は、食品スーパー事業だけではない。
2015年3月期は、ホームセンター事業では2期ぶりにバロー松阪店(三重県、同1万820㎡)をオープン。ドラッグストア事業では、「V-drug 大森店」(愛知県)などV-drugを合計30店舗新設する。
さらにはグループ企業の食鮮館タイヨー(静岡県/田代正美社長)が2店舗を出店する予定である。
この拡大戦略によるバイイングパワーを背景に、製造小売業化やPB(プライベートブランド)の拡充にも乗り出し、粗利益率のアップを図る。
「利は元にあり」の言葉通り、製造業や第一次産業にまでさかのぼることで利幅増大に取り組む。
中部フーズや中部ミート、ダイエンフーズなどに加え、漬物製造の福井中央漬物、農業支援の帥定アグリ、商品調達のバローUSA、飛騨小坂ぶなしめじ、東邦産業、郡上きのこファーム、バローファーム海津など新会社を続々と傘下に加えている。
プライベートブランドは高品質の「Vプレミアム」の開発の取組を強化する。
価格政策は、EDLP(エブリデー・ロー・プライス)からハイ&ローに戻すという。「新店でEDLPを導入したところ好調に推移したので、既存店にも水平展開したところ支持されなかった。新店からEDLPを導入した店舗はそのまま継続させるが、既存店から変更したものは元に戻す」(田代社長)。
事業規模拡大→製造小売業化による利幅増大に加えて、コスト削減にも力を入れるのが同社のもうひとつの戦略だ。
その一翼を担っているのがプロセスセンター(PC)である。
たとえば、2013年9月に開設した大垣畜産PCが商品供給した既存58店舗の対前期比数値を見ると一目瞭然だ。
【畜産部門】
粗利益高:対前期比10%増
粗利益率:27.3%(同1.5ポイント増)
売上高:同4.2%増
店舗人件費:同6.3%減
同社がPC化を進めるのはわけがある。
「出店によるドミナント強化で収益性は向上するが、年間20店舗の大量出店を継続していると従業員間の技術力格差が大きくなる」(田代社長)からだ。
特に生鮮食品のインストア加工では顕著であり、「(大量出店は)従業員の技術力の平均値を下げ、スケールデメリットになる」(同)。
これを改善し克服することがPC化の意義のひとつだ。
PC化には、まだまだメリットがある。
たとえば、1店舗では敬遠されがちな高額商品の加工は、集中加工により、小ロットでの納品・商品陳列が可能になり、店舗における品揃えを豊富にする。
店舗の主要業務は、陳列・補充となるため、開店時間当初からボリューム感が演出できる。
固定カメラからの画像によって畜産のPC社員は、供給する全店舗の売場を把握し、過去の実績とともに生産計画を立案。専門の人間が発注を担当するので、精度が向上し、粗利益率のアップが図られる。
さらには思わぬ副産物も飛び出した。生体や枝肉を処理した後に出る骨まで販売することができることが分かったのだ。
「仕入れでは利益につながらなかった部分が、PCでは利益になっている。これが製造に入り込むことのメリットだ」(田代社長)。
また、同社はコスト削減策の一環として、自動発注の精度向上の取組を実施している。
部門担当者の判断による発注業務を、統一した基準で自動化した業務に変換し、さらにその精度と効率を高めている。
同社の自動発注システムの区分は下記2つだ。
【在庫高発注点による自動発注】
定番の加工食品やホームセンターの商品群で在庫高が指定された発注点に達した時に指定された定量納品を行う。
【需要予測システムによる自動発注】
過去の売上実績データの解析により、将来の需要を予測するシステムの検証を一部の商品について実施。実績データとの差異分析によりさらに精度を高める。
そして、IT技術を利用した店舗支援策にも注力し、効率化を図っている。
【店舗本部のコミュニケーション手法の改善】
Eメールによる本部店舗コミュニケーションから社内イントラネットの刷新によって、店長・店長代理の業務を軽減。社内イントラネット、携帯端末に新たな機能を追加することにより、さらなる効率化を図る。
【店舗での業務計画作成のシステム化と標準化】
従業員の出勤シフト計画、実績管理をシステム化することで、店舗業務の効率化と本部による管理精度を高める。店舗での各従業員の作業スケジュール管理ツールを統一し、その活用により、従業員のレベル向上を図る。
なお、同社は、製造小売業化のビジネスモデル構築に向け、企業価値の最大化を図ることを目的に2015年10月1日に持株会社体制に移行する。商号はバローホールディングスとなる予定だ。
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