川野清巳ヤオコー社長の「明日に架ける言葉」(3)
(昨日の続きです)
私たちはここ十数年、迷わずに「ライフスタイル型スーパーマーケット」の充実に取り組んできた。社内では「豊かで楽しい食生活提案型」と言っている。
私たちは、小商圏高頻度来店、エブリデー、エブリバディを対象としたお店。近所の多くの生活者の方々に「買物が楽しくなった」「料理が楽しくなった」「食事が楽しくなった」と感じてもらえるようなお店を目指している。
今後も、その実現を図るため、人材育成、組織作り、仕組み作り、商品作りに取り組んでいくだろう。
ここ数年、世の中、とくに私たちの業界は、「安さ、安さ」と強調されるようになった。
確かに今の経済状況からすると生活者の方々が生活防衛や将来不安から我慢や節約をせざるをえないのは必然だ。
ただし、生活者の目的は生活を楽しむことであって、安さはそれを実現するための手段に過ぎない。その手段である安さの重要度が増してきていることは事実だ。
だから、私たちは、日本における「生活者の変化」「マーケットの変化」「新フォーマットの出現」「米国などの状況」に鑑み、「ミールソリューション」と「価格コンシャス」の充実をテーマとして、取り組んでいる。
アソートメント、品質、価格の幅をある程度広げて、地域の生活者の多様なエブリデーのニーズに応え、なお、新しいニーズをつくっていかないといけない。そのための人材育成、組織作り、全員参加の商売であったり、パートさんのキャリア化、しくみづくり、システムにより合理的なコストダウンなどは大変難しい課題ではある。
しかし、難しいからこそ、差別化になるのだと思う。
近年は多少なりとも人材は育ったし、店の差別化もできつつあると感じ始めている。
より充実を図って、圧倒的な差がつけられるようにしたい。
日本人ほど食に習熟した民族はいないと思う。
その点でも私たちのフォーマットは、必ず受け入れられ、シェアを高めることができる。ビジネスチャンスは十分あると確信している。
ちなみに第7次中期経営計画(2013年3月期~2015年3月期)の基本方針と重点課題を言うなら、目標は「チェーンとして明らかに差をつける」ことにある。お客さまに明らかにヤオコーの方が良いと、選んでいただける店づくりだ。
重点課題は、ひとつは生鮮強化、ひとつはカスタマーの確保、ひとつは先進的革新的なMD(マーチャンダイジング)の開発、ひとつは店舗間格差の縮小、ひとつは生産性の向上、ひとつは従業員満足の向上(待遇改善)だ。
さて、私が退任する理由は、就業規則に即したものだ。社長定年である65歳を迎えた。これは私がつくった規則であり、私なりに考えた結論だ。
母が存命中は、兄弟仲良くヤオコーでがんばることが母への孝行だと思っていた。どうしたことか、その母が亡くなった年に私は社長に就任した。
その時、しっかり後継者が育ち、人材や組織がある一定水準を超えたら、退任しようと心に決めていた。
次世代に良い状態でバトンタッチすること。それが私にできる最後の親孝行だと思っていた。幸いなことにわが社には、(会長次男、澄人という)後継者候補がいたので、育てるためのプログラムを作成した。
私が身内を褒めることは憚られるが、新社長はまじめであり、志があり、考え方もしっかりしている。私や兄の同年代の時より、人間としても数段できている。
足りないのは経験だけだ。こればかりはしようがない。だから、この3年間は、本人にも自覚してもらい、通常の2倍くらいの経験をしてもらった。
まずは小売業のマインドを感じ、知ること。社員の気持ちを肌で感じてもらうことが主な目的だった。
私の想定以上に身につけてもらったと思っている。
そして、これからもわが社の基本方針は変わらない。
「ライフスタイル型スーパーマーケット」は、これからの時代にも十分に通用するフォーマットだと確信しているし、マーケットの変化にも対応できるような体制もできつつある。
私は、今後10年前後で、日本でも規模の大きいスーパーマーケットの寡占化が起こると思う。電気料金の大幅値上げ、円安原料高、低売価、2度にわたる消費税アップは、寡占化への大きなきっかけになると思うが、まだまだ前哨戦に過ぎない。
次の世代の人たちには、その前哨戦をしっかり乗り切ってもらい、苦労し、実力をつけ、倒すか倒されるかの戦いに立ち向かって行ってほしい。
その点でも今が世代交代の絶好のタイミングだと思っている。
24期連続の増収増益はほぼ確実。次の世代にとって、増収増益は大変なプレッシャーだろう。
次の数年は電気料金、消費税などへの対応で苦労すると思うが、苦労することで成長できるだろうし、同じような苦労を私たちも乗り越えてきたつもりだ。
私としてはライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)との提携は、単に相互の企業力を高めるだけではないと考えている。若くて志のある岩崎社長と弊社の新社長で、より世の中の役に立ち、働き甲斐があると思ってもらえ、実際に働きがいのある業界にしてもらいたいと思う。
ヤオコーグループの総菜製造販売企業である三味(埼玉県/小林正雄社長)の2年後の統合。それにヤオコーカードの導入と当面の課題についての道筋はつけてきたつもりだ。
これらを成果につなげていくのは次の世代の役割だ。成し遂げてくれると期待したい。
第7次中期経営計画は、次世代の人たちが中心となってつくった。
私自身やり残したことはない。母がいて兄がいて、多くの社員に支えられ、多くの恩人に出会い、取引先に支援をもらい、大変幸せで運の良い「ヤオコー人生」だった。
これからは家族との時間を大切にしたいと思う。
新社長には、私の生きているうちに500店舗、売上高1兆円を達成させてほしい。楽しみにしている。
最後に多くの取引先のおかげで今日のヤオコーがある。これからもいままでにました支援鞭撻をお願いして感謝の言葉にしたい。
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