鏡を覗くたびに

2012/02/29 00:00
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 学校を卒業して入った会社で初めて仕えた上司は、母ほど年の離れた女性だった。

 

 実力も実績もないけれども、プライドだけは100万倍の私は生意気を絵に書いたような新入りで、当然のことながら目をつけられ、女性上司には、微に細に、箸の上げ下げにいたるまでしつけられた。

 男の上司なら放っておいてくれるようなことも、強制的に矯正され、学生の部活動よりも厳しい毎日を過ごした。

 呼びつけられて叱られるたびに、殊勝な感じでうなずいていたものだが、心の中では、この説教が早く終わることを、マントラを唱えながら待っていた。要するに聞いちゃいない。まあ、いやな部下である。

 

 ところが、あれから20年余りが経過して振り返れば、そのころに注意されたことや教えられたことがものすごく役立っていることを実感する。

 ビジネスマンというよりは、社会人としての「いろは」を教えてもらったと言ってよく、いまとなれば、感謝、感謝である。

 

 その後、退職届を会社に出した私は、出社最終日に元上司となっていたその女性に「お世話になりました」とあいさつに行った。

 すると「20年後に会った時に、よい顔になったねと言われるように努力しなさいよ」と餞の言葉を贈ってくれた。

 

「顔は男の履歴書」「男は40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」という言葉があるけれども、「いまお会いしたらならば、あの人はなんて言うだろうかな」と鏡を覗くたびに考えている。
 

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