日本スーパーマーケット協会川野幸夫会長 2011年流通業界雑感(2)
昨日の続きです。
東日本大震災後によってサプライチェーンが寸断された影響で、商品供給がおぼつかない状況に陥ったのは周知のとおりだ。だから、震災後の特需がある一方で、特売などの安売りができず、自粛ムードの高まりによって大々的にチラシを打つことも憚られた。
その結果、粗利益率を下げないで売り上げを増やすことができた。だから今年の上半期は、多くの食品スーパー(SM)企業が増益になった。
このことを教訓にして、SM業界は、「“無理な安売り”は馬鹿げている」という学習をしたはずだった。
にもかかわらず、夏場頃からまた“無理な安売り”がスタートしている。なかなか学習効果は続かないものだと残念に思う。
“無理な安売り”は、結局、その場しのぎに過ぎず、いずれ自分の首を絞めることになる。それぞれの企業がしっかりとブルーオーシャン戦略をとり、“何屋”になるのかを明確にして企業を経営していかないと、生き残っていけない状況になっているのだ。
業界再編についても話したい。
今年は大きなM&A(合併・買収)がいくつかあった。イオン(千葉県/岡田元也社長)がマルナカ(香川県/中山明憲社長)グループを買収して、アークス(北海道/横山清社長)がユニバース(青森県/三浦紘一社長)を経営統合した。
多くの方々がSM業界の本格的な再編の始まりだと考えている。それはもっともなことだ。
私なりに考えると、SM業界が再編に向かう理由はいくつかある。
ひとつは、少子高齢化による人口減少だ。「すでに起こった未来」ということで人口動態は予測可能な事実だ。少子というのは口の数が減るということ。高齢化は食べる量が減っていくということ。ということは売れる量が減るということであり、将来に向かってパイはどんどんしぼんでいく。
2つには日本経済の衰退である。当然、お客さまの財布の中身は増えない。増えない上に、消費税などの増税の話が出ており、国民負担は増大、可処分所得は減っていく。税と社会保障の一体化の話があるけれども、現実にはなかなかうまくいかないという予想もあり、将来に対する国民の不安は解消していかない。
そんな状況なので、売上は増やしづらい。お客さまが財布の紐を固く締めるからだ。
節約や価格に対する厳しい目を持ち続けるはずであり、利益が上げられないような状況が続くだろう。
3つめはオーバーストアの問題だ。私が会長を務めるヤオコーも出店をどんどんしている。SMの店舗数はますます増えていくだろう。しかもSMのみならず、食品市場をめがけ、ドラッグストアやホームセンター、ディスカウントストアなどさまざまな業態が参入している。本当に厳しい競争状況が続くものと見込まれる。
SM業界は、カットスロートコンペティション(喉元を掻き切るまでの競争)の時代に入ってきていると言えるだろう。
4つめは世代交代だ。多くの企業が創業者から次世代へのバトンタッチの時期に差し掛かっている。
そして、多くの経営者が厳しい環境と世代交代のことで、悩んでおり、企業譲渡や廃業も選択肢のひとつとしてとらえている。
そうした要素があいまって、SM業界の再編は進行する可能性が高い。
今も水面下でM&Aが進んでいる可能性はなくはない。具体的な話を私は知らないが、SM業界はそんな状況にある。
さて、日本スーパーマーケット協会は、協会設立10周年事業として10年後のSM業界の予想図である『シナリオ2020』という冊子をつくった。多くの方々からの意見をもらい、議論をして、学者の方にも加わってもらい、10年後のSMのあり方について検討してそれをまとめた(要約版は以下をクリック)。
http://www.jsa-net.gr.jp/scenario/20111130.pdf
よくまとまったと思う。大塚明専務理事をはじめ頑張り、ある意味での功績を遺した。
我々SMの経営者も、いまから予想できる環境変化を、改めて認識させられた。その環境に対していまからどう手を打つべきなのか、多くの企業が考え始めてくれるひとつの材料になれば良いと思う。
来年は従来以上にしっかりアンテナを張ってお客さまのニーズや動きを見て、それに的確に応えていかなければならないだろう。
SM業界としてお互い切磋琢磨しつつ、助け合いながら頑張っていきたい。
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