「俺たちは柏レイソルだぞ!」
「俺たちは、柏レイソルだぞ!」。
2010年初め――。
その前年7月に柏レイソルの監督に就任したネルシーニョは、キャンプ地グアム島での練習試合を決めてきたチームのマネジャーを烈火の如く怒鳴り散らした。
ネルシーニョは怒声を飛ばす。
「俺たちは、柏レイソルだぞ! なぜ、試合のグランドをガンバ大阪がキャンプを張るレオパレスリゾートにする必要があるのか? そうなると全員が移動しなければならないし、選手にとっても何かと不都合が生じる。こっちのグランドでやるべきだろう」。
当時の柏レイソルは、2009年のシーズンで下位に沈み、J2に降格したばかり、チームの意気は消沈していた。
一方、対戦相手のガンバ大阪は、多くのスター選手を抱える超名門。1993年のJリーグ発足以降、J1に君臨し続け、常に上位に位置する常勝チームだ。
マネジャーは、キャンプ地が同じグアム島だった関係から、ガンバ大阪に練習試合を申し込み、レオパレスリゾートでの練習試合を決めてきたのだった。
ふつうの感覚からいえば、マネジャーの采配に大きな誤りはなく、J1上位の実力を持つガンバ大阪とのマッチメークを褒められこそすれ、大きな雷を落とされるような筋合いはないように見える。
ところがネルシーニョは、違った。
その本意は、試合をやる前から変な負い目を持って、“負け犬根性”を出すな、ということに尽きる。
「(ガンバ大阪に)試合をやっていただいた」という感じで譲ってしまえば、J1に再昇格して、公式戦で顔を合わせた時には、気後れしてしまうかもしれないからだ。
確かに、日本には、“ユニフォーム負け”“名前負け”という言葉がある。
高校野球なら、智弁和歌山やPL学園…。大学ラグビーなら、早稲田大学や明治大学…。かつての読売ジャイアンツや西武ライオンズ…もそうだった。
“名門”のユニフォームや名前を見ただけで、劣等感を持ってしまうのだ。
選手たちは試合前から、一歩後ずさりしているわけだから、その状態からは、なかなか勝てるものではない。
過信のあまり、驕りや慢心を持つことはよくない。けれども試合前から劣等感を持つことは、なおいけない。
ネルシーニョが払拭しようとしたのは、この“負け犬根性”であり、逆に“勝者の意識”ともいうべき精神を新たに植え付けようと考えた。だからこそ、怒髪を天に衝ける勢いでマネジャーを怒鳴り飛ばしたのだった。
ネルシーニョの戦術は、チーム内に競争原理を持ち込みレギュラー獲得競争をさせたり、ポジションごとに役割を与え自由と責任の両方を持たせるなど、特筆すべきものは数多い。
しかし、注目したいのは、選手にいわれなき劣等感を持たせないことだ。
それが証拠にJリーグの2011年シーズンでは、J1復帰後、初となる即優勝を果たした。2敗を喫したもののガンバ大阪にも臆することはなかった。
また、12月11日には、下馬評では、ほぼ勝ち目がないと予想されていた北中米カリブ海王者のCFモンテレイ(Club de Fútbol Monterrey:メキシコ)をPK戦の末に4-3で倒した。
「格」なんてものは、所詮、幻想であり、まず自分の力を出し切れ、というネルシーニョの情念は、いまやスタッフに伝わり、選手に伝わり、大輪を咲かせている。
さて、今夜のFIFAクラブワールドカップ準決勝の対戦相手は、南米王者のサントスFC(ブラジル)――。
柏レイソルの“ジャイアントキリング”(=大番狂わせ)を見せてもらおう。
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