インド市場のウォルマート
米ウォルマートは、インドのバルティ・エンタープライズとの合弁会社バルティ・ウォルマートを設立。現金取引で顧客が商品を持ち帰るキャッシュ・アンド・キャリー型の店舗を出店している。1号店は2009年、インド北部のパンジャブ州に出店。この10月末現在で3店舗を展開するに至っている。店舗面積は5000~1万㎡。次の3年間に15店舗程度を開業するという。
現在、インドでは卸売業への流通外資参入は、認可不要であり、「SONYショップ」のような単一ブランド製品を扱う小売業の直接投資(FDI)は上限出資比率51%まで認められている。しかし、複数ブランド(マルチブランド)の商品を扱うウォルマートのような企業にはまったく門戸が閉ざされてしまっているのが現状だ。
そこで、規制のない卸売業態での出店となっているわけだが、この規制に風穴を開けるべく、ウォルマートは、マルチブランドを扱う小売業1号店の開設に向けて、次々と手を推し進めている。
同社が目を付けたのは「農業」と「農家」である。インドの70%以上の世帯は農業に従事しており、全消費の40%は農村部の需要である。
ところが、サプライチェーンやコールドチェーン網が確立されていないことに起因して、その生産性は極めて低い。年間25~30%の野菜・果物が廃棄されているという数字があるほどだ。
ウォルマートが乗り出しているのは、その農業振興である。
マイケル・デュークCEO(最高経営責任者)は、2015年までに350万人の中小農家から農産物を直接調達すると表明。農家の収入20%増を達成するためにアムリッツアールやデリー、バンガロールに研修センターを設置し、100万人規模の教育の意向を示している。
実際に次の5年間で4万人の訓練を実施し、うち1万5000人を採用するという。
インドの農業発展に向けて、支援助成し、共同で近代化に取り組み、サプライチェーンを構築し、雇用を生み出す。国家の発展に寄与するというアプローチで、市場開拓に乗り出しているのだ。
この流れは、ウォルマート・チャイナが中国で取り組んでいる「ダイレクト・ファームプログラム」で実践済みだ。主に農産物を対象に農家との直接取引をスタートさせ、参加する農家の収入アップを図り、農村部の経済発展に寄与するというものだ。
アメリカは国家としても、民間企業のインド進出をバックアップしており、2010年11月6日~8日には、バラク・オバマ大統領が訪印。①21件の商談を成立させ、②規制緩和を要求、③米印ビジネス協議会を発足させるなど、民間企業の後押しを進めている。
国家レベルでインド市場の攻略を目指す――。
アメリカとウォルマートには、流通外資としての日本は、もはや十歩も二十歩も遅れており、太刀打ちできないのではないだろうか?
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