資本力と資金力の違いが分かりますか?
作家の安土敏さんに「資本力と資金力の違いが分かりますか」、と問われて、思わず黙りこんでしまった。
辞書的に言えば、資本力は「事業の成立・保持に要する基金の力」、資金力は「営利・経営などの目的に使用される金銭の力」になるが、これだけ読んでも違いはよくわからない。
しかも、そこは安土さんの言うこと。何かしらの意図があるはずで、そんなバカげた答えであるはずもない。
安土さんによれば、「資本力とは借金に耐える力、資金力は外から金銭を調達する力」のことだという。そして、「新しい事業を成功させるためには、資金力が必要です」とおっしゃる。
たとえば安土さんも在籍していた総合商社の場合は、「資本力はありますが、資金力には乏しい」というのが安土さんの見方だ。
総合商社がある新しい事業を興そうと投資をする。借金に耐えられる力があるから、うんと儲かる事業であれば何も問題はない。
だがそんな事業は、極めてまれである。たいていの事業は離陸するまで悪戦苦闘を強いられるものだからだ。
ところが、創業から2~3年経過して、事業の先行きがある程度見え、「それほど儲からない」と出資者である本社が結論を下すと、赤字を避けるために、その事業から簡単に撤退してしまう。
その格好の例が、昭和40年代に市場にどんどんと参入を決め、数年間のうちに次々と撤退した大資本傘下の食品スーパー企業だ。「スーッと出て、パーッと消える」と揶揄された。
もう少し頑張れば、軌道に乗る事業でも、撤退させてしまうのが大資本のDNAだ。
結局、資本力のある企業内に新規事業は、なかなか育たないことになる。
これに対して、情熱的な起業家のように資金力のある人材が牽引する新規事業は、規模の大小は関係なく、資金調達は他力本願ではない。血のにじむような努力の末に調達した資金で必死に事業に打ち込むから、事業は育っていく。
そして、成功した食品スーパー企業のほとんどには、資金力を持つ人材がいたのである。
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