オススメの一冊 『マーケティング視点のDX』
「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉がビジネスで聞かれるようになって久しい。DXとは、ビッグデータやデジタルテクノロジーの活用によるビジネスの大変革のことである。2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大により働き方や生活様式が大きく変化し、多くの企業でDXが推進されるようになった。しかし、著者によれば、それはDXの第一歩にすぎないという。コロナ禍がもたらしたDXは、商品やサービスを提供する企業が通常業務を維持するためのものであり、消費者はまだDXによる恩恵をそれほど受けていないというのが実情だ。本書は、消費者や市場についてよく理解しているマーケターがDXに積極的に関わり、市場の課題を解決すべきだと説いたビジネス書である。
本書は6章構成となっている。DXとはどういったものかという基本的な定義の解説から、DXにマーケティング視点が必要な理由やその重要なポイント、DXに積極的に取り組む企業の事例、自社のDX診断に役立つワークシート、DX理解のための用語解説などが盛り込まれている。
本書では、マーケティング視点を持ってDXを推進していくことを「D X2.0」と定義している。このDX2.0において著者が重要視しているのが、「Problem(課題)」「P r e d i c t i o n(未来予測)」「P r o c e s s(改善プロセス)」「People(人の関与)」の4Pだ。3章ではこの4Pについて解説し、DX2.0を推進する上でのポイントを提示している。
4章では、実際にDXに取り組んでいる企業の事例を4Pに沿って解説している。世界最大の小売企業であるウォルマート(Walmart)は、ECの台頭で低迷していた業績を回復させるため、顧客の不便を解消するという視点からDXを推進。オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ(Curbside Pickup)」や、自社の決済手段「ウォルマート・ペイ(Walmart Pay)」など、さまざまな施策で買物における手間を省き、リアル店舗における顧客との接点を維持しながら買物の仕方を大きく変えることに成功した。
コロナ禍で生活様式が大きく変わりつつある今は、DX2.0を推進する絶好の機会である。本書は、企業でマーケティングに携わる人にDXにおけるヒントを提示してくれる1冊となるだろう。