建設業をもっと魅力のある業界に職人が正しく評価される仕組みづくり
建設業界の受発注を支援するマッチングプラットフォーム「ツクリンク」を運営するツクリンク(東京都)。その創業者、内山達雄社長が語るのは、業界の未来を見据えた強い問題意識と、人と人をつなげるリアルな現場感だ。泥臭さを武器に、建設業をよりよくする挑戦に迫る。
建設からITへ職人経験が原点
――ツクリンクを立ち上げた経緯を教えてください。
内山 大学を中退して、とび職として建設業に入った。見習いからスタートし、職人、営業、現場管理と現場の最前線を経験したが、リーマンショックや政権交代による公共工事の減少で、建設業全体が冷え込んでいくなか、業界に不安を覚えた。
当時、IT業界に目を向けてみると、サイバーエージェント(東京都)やグリー(東京都)といった企業が成長し、若くして活躍する人たちの姿に刺激を受けた。自分もITの世界に飛び込んだが、そこには優秀な人材が多く、自分が勝負するならば、建設とITの両方を知る強みを生かした分野だと考え、2012年に会社を立ち上げた。

――事業の原点には、どのような課題意識があったのでしょうか。
内山 建設会社時代、飛び込み営業をすると、「忙しいから帰れ」と名刺すら受け取ってもらえないことがほとんどだった。ところが、繁忙期になると「仕事できる人はいないか」と電話がかかってくる。忙しい人と暇な人がうまくつながっていない非効率さに課題を感じ、これを解消できる仕組みをつくれたらと思ったのが出発点だった。
最初は知り合いに使ってもらう程度の小さなサービスだったが、ユーザーが増えるにつれて、建設業の重要性や社会的意義をあらためて感じるようになり、本気でこの業界を支える事業にしていこうと決めた。
――実際立ち上げてからはスムーズに事業が進んだのでしょうか。
内山 いや、当初は何でも屋のように、建設業者のパンフレット制作やシステム構築、年末年始に配るカレンダー作成まで幅広く相談を受け付けた。そうした仕事を受注することを通じて、ツクリンクのサービスを知っていただけるよう努めた。
リアルな信頼づくりの工夫
――御社は日本最大級の建設業のマッチングプラットフォームですが、事業の特徴について教えてください。
内山 特徴的なのは、法人の利用が多く、重層構造の上位層と個人事業主である職人が直接つながる仕組みができている点だ。利益の少ない末端建設業者同士のマッチングではなく、中間を抜いて双方が利益を得やすくなる設計にしている。値付けも自由なので、受注単価が上がり、「個人事業主から法人化できた」という声を頂くこともある。
他方、支払い保証制度を導入しており、新規取引でも安心して仕事ができるようにしている。実際、初めての発注先に対して「ちゃんと支払われるのか」といった不安の声は多い。前金を求める受注者と、支払いリスクを感じる発注者、双方の不安を取り除くことで、信頼性の高い取引が可能になる。
――ネット完結のサービスながら、リアルの交流にも力を入れているそうですね。
内山 全国各地で月4回の交流会を開催している。立食形式で自己紹介や名刺交換を行い、その場で仕事につながることも多い。やはり、ネット上だけでなく、顔を合わせた信頼関係づくりも重要である。
参加者は職種も地域もさまざまで、関東、東北、関西、九州など各地で実施している。実際に参加者から「交流会で知り合った方と仕事になった」という声も多く寄せられている。リアルでの交流には、サイト上のメッセージのやりとりとは異なるパワーがあるため、場づくりを続けている。

――収益モデルと開発体制について教えてください。
内山 利用する事業者から定額で月額利用料を頂いている。従量課金ではなく定額制にしているのは、受注金額の大小に関係なく、利用者が安心して使い続けられるようにするためだ。中間搾取をしないという思想があり、使えば使うほど利用者にとってのメリットが増える仕組みをめざしている。現在は5つのプランを提供しており、基本機能のみなら無料でスタートできる。開発はすべて内製で、エンジニアやデザイナーは計約30人。社員約100名は、全国に分散してフ果、北海道から沖縄まで社員が在籍しており、拠点を置かなくても全国で即座に対応できる体制が整った。
職人の〝プロ化〞で憧あこがれの産業へ
――職人・一人親方などのマーケットについて、どうみていますか。
内山 人手は減っている一方で、建設投資は増え、現場は忙しくなっている。つまり、需要はあるのに人が足りないという状況だ。これまで元請けが圧倒的に強かった構造から、徐々に対等な関係に移行する過渡期にあると感じている。

公共工事の単価も上がり、人材確保の重要性が増している。この10年が勝負だと考えており、今こそ建設業の魅力を再発見してもらえるチャンスだとみている。
――業界をよくするには、どんな課題がありますか。
内山 大きな課題は「イメージ」と「賃金」だ。命にかかわる現場で高い技術が求められるのに、賃金水準は低く、若者に選ばれにくい産業になってしまっている。昔は月収200万円を稼ぐ職人もいたが、今は30万〜40万円が主流。それでは担い手が減るのも当然である。
社会全体で悪質な中間搾取も根強く、まじめに働く人が報われない構造が残っていると思えてならない。まじめに働く会社や人が正しく評価される仕組みをつくりたいと考えている。
――他業界ではAIが現場の作業を変えつつあります。AIの活用について、どうお考えですか。
内山 AIの進展によりホワイトカラーの仕事は大きく変わっていくが、建設現場の職人の仕事はそう簡単に代替できるものではない。むしろ安定性がある職種として、若者にとって魅力的になる可能性がある。
一方で、建設会社の業務効率化や評価制度の仕組みづくりには、AIを積極的に活用していきたいと考えている。
――今後のビジョンや展望を教えてください。
内山 業界全体として、もっと「評価」の在り方を変えていきたい。建設業界には多くの信頼できる会社が存在する。なので、通報制度を活用してトラブル企業を排除し、残った人たちを適正に評価し、安心して信頼できるネットワークでつながれるようにしていきたい。その評価を活用していただけるような未来をめざしていく。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
内山 今、建設業界全体が力を合わせるべきタイミングだ。業界内の競争をいったん脇に置いて、まずは建設業をもっと魅力ある業界にしていく。その先に競争があると考えている。
情報が不足しがちな業界だからこそ、職人たちが正しく評価され、正しい情報に触れられるような仕組みを一緒につくっていきたい。商品開発や仕入れ支援などでも、何かご一緒できることがあれば、ぜひ声を掛けてほしい。






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