第92回 日本のSCがデッドモールになりにくい意外な理由
米国などでは、「デッドモール」と呼ばれる空室だらけのモールがある。それを引き合いに「これから日本もデッドモールが増加する」と心無い記事を書くライターや評論家がいる。しかし、われわれの周囲にそのようなデッドモールは存在しているだろうか。空室の目立つショッピングセンターは少なからずあるが、それも少数である。では、なぜ、日本にデッドモールが現われないのか、今回はその理由を解説する。

ビジネスモデルの違い
「デッドモールは日本には現われない」と言えるのは、日本特有のビジネスモデルに起因する。日本のSCは、開発して売却されることは非常に少なく、デベロッパー自らが保有し、運営に永続的に関与するケースが多い。
その場合、直接的に関与することもあればSC運営を行う子会社を通じて行うケースもある。いずれにせよ「つくって売っておしまい」というビジネスではなく、運営管理を通じたインカムゲインを考える経営が「JAPAN-SCスタンダード(日本流のショッピングセンター基準)」である。
要するに、産み育てる息の長いビジネスとして考えて、商業施設を街づくりの一環として開発を進める。そこからエリアへの集客や街のブランディングに価値を見いだす。三菱地所の大丸有や三井不動産の日本橋や東急の渋谷が好例だろう。
デッドモール化する要因
以下の図表1は、日本SCとデッドモール化する海外SCの比較をしたものだ。わかりやすくするために多少デフォルメした面もあるが、前項で指摘したSCビジネスへの関与度がすべてにわたって影響していることがわかる。
JAPAN-SCモデルは、「造った後、その成長を願う」ことが最大の特徴である。
それに対して、デッドモール化するSCはつくったのちに賃料収受を狙う不動産賃貸物件となる。加えて、賃料収入を裏付けとした利回りと資産価値が算定され売却される。SCを買収後、SCの営業成績が下がり配当が低下すれば、資金は他の収益物件へ移ることになる。不動産ビジネスとしては、こちらの方が真っ当な気もするが、日本のSCはそうドライではない。
デッドモールは「新規に開発された後に、売却され、運営管理にそれほどの経営資源をかけられず、資産価値の低下を招く」というシナリオを描く。それを安値で買い受けた新たなデベロッパーは、時代に合致したリニューアルを行うことによってバリュー(資産価値)を上げて、転売する。この繰り返しである。
要するに、
続きを読むには…
この記事は DCSオンライン会員(無料)、DCSオンライン+会員限定です。
会員登録後読むことができます。
DCSオンライン会員、DCSオンライン+会員の方はログインしてから閲覧ください。
商業施設の価値を再定義する「西山貴仁のショッピングセンター経営」 の新着記事
-
2025/12/01
第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定 -
2025/11/18
第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由 -
2025/10/31
第126回 SC運営の成否を決める顧客の滞在時間 “装置産業”としての役割とは何か -
2025/10/17
第125回 「駅ビル」が抱えるリスクを百貨店の歴史から考える -
2025/10/03
第124回 相次ぐフードホールの開業 日本で成功するためのカギとは -
2025/09/19
第123回 「営業時間統一」という常識打破に向け、SCに求められる対応とは
この連載の一覧はこちら [128記事]
関連記事ランキング
- 2025-11-07長野県内最大「イオンモール須坂」が開業! イオンスタイルでは非食品の“専門店化”に注力
- 2025-11-18第127回 ショッピングセンターが「フロア収支」を採用しない理由
- 2025-11-06「街ナカぐらし」に寄り添う!「イオンモール仙台上杉」の館づくりを解剖
- 2025-10-21実例に見る「危ない商業施設」の見分け方
- 2025-11-13知られざる四国の激戦地・愛媛県西条市 トライアル進出で環境急変か
- 2025-11-13イズミ、ハローズ、ダイレックス……中四国最大都市・広島市の視察の仕方
- 2025-11-09新潟県初の「そよら」がオープン イオンリテールの県下での存在感さらに大きく
- 2025-12-01第128回 少子高齢化時代におけるショッピングセンターのターゲット設定
- 2025-10-03「ニュウマン高輪」がデザインする100年先の生活価値とは
- 2013-12-02年間2ケタ以上のNSCを開業!地域密着の商業集積めざす=イオンタウン 大門 淳 社長




前の記事
