アングル:先進国市場、「低インフレ長期化」織り込みは杞憂か
[ロンドン 5日 ロイター] – 先進各国は国債利回りが急低下し、中央銀行はインフレ期待の消滅を防ぐには大胆な金融緩和しかないと思い込まされているようだ。しかし市場がインフレの動きを読み誤っていれば、利下げや紙幣増刷に備えている日本やユーロ圏、米国の中銀は最終的に手痛いミスを犯すことになるだろう。
何年経っても2%のインフレ目標を達成できず、市場によって信認が疑われる事態を心配している中銀は、金融政策の運営姿勢を半年前から180度転換し、金融緩和に軸足を移した。
ただ、インフレの見通しは見掛けほど悲観的ではないとして、中銀の反応を疑問視する声は少なくない。
BNPパリバ・アセット・マネジメントのマルチアセット・ソリューション・チームのコリン・ハーテ氏は「市場はミスを犯し得る。債券市場が過剰反応しているのかもしれない」と指摘。「中銀はかなり緩和的で金融市場に対して非常に神経質になっていると話す人は多い」と述べた。
国債市場は明らかに警戒のメッセージを発している。多くの国で国債利回りがマイナス圏に沈み、ドイツの10年物国債は欧州中央銀行(ECB)の預金金利であるマイナス0.4%を割り込んだ。
米30年物国債の利回りは2.4%に低下。ユーロ圏のインフレ期待の指標として注目される5年先5年物フォワード・スワップは過去最低の約1%を付け、米10年物インフレ連動債(TIPS)のブレークイーブンインフレ率は1.6%近辺だ。
フィデリティ・インターナショナルのマーケットアナリスト、イアン・サムソン氏によると、問題は市場がしばしば将来のインフレを実際よりも弱く、あるいは強く見込んでしまうことで、2013年と16年にはユーロ圏の2年物フォワードスワップが将来の物価の伸びを極めて過剰に見込んでいたという。
サムソン氏は「今回はインフレが過小評価された。(米国の)住宅と医療のコストは大幅に上昇しているのに、実際のインフレはまったく上昇していないようにみえる」と指摘した。サムソン氏は物価が徐々に上がると見込んでいる。
ダブルラインのジェフリー・ガンドラック氏やフランクリン・テンプルトンのマイケル・ハッセンスタブ氏など有力債券投資家もサムソン氏と同じ立場だ。
インフレに対する市場の見方に批判的な人々は、市場は賃金上昇や、ハイテク部門の技術革新に伴う生産性向上などの変化をつかみ損ねていると指摘。こうした動きをより良く反映しているのは購買担当者景気指数(PMI)や消費者信頼感指数であり、理由は企業や一般家庭の設備投資や購買計画の方が債券トレーダーよりも物価への影響が大きいからだと主張している。
フィデリティのサムソン氏によると、PMIや消費者信頼感指数もそれほど明るい内容ではないが、ブレークイーブンインフレ率が示すほどには悪化していない。
米国のミシガン大消費者信頼感指数とCB消費者信頼感指数は、スワップ市場に比べればインフレと消費者信頼感について楽観的。日本の消費者の間でも物価が上昇に向かうとの見方が圧倒的に多い。
ユーロ圏のPMI物価指数は製造業とサービス業の生産者物価が弱いものの、拡大局面を維持している。
労働市場も債券トレーダーの悲観的な見方を織り込み過ぎており、見当違いをしている。先進国はほぼ完全雇用の状態にもかかわらず、これまでのところ賃金と雇用の伸びによる物価上昇は起きていない。しかし賃金の伸びが加速すれば、労働市場と物価の連動性が回復するだろう。
インフレに上昇の兆しが表れて金利リスクの急速な見直しが起きれば、こうした動きが引き金となって債券利回りは急上昇する恐れがある。