流通マーケターのための食品表示の基礎知識
第5回 食品表示法に基づく食品表示基準の改正

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原料原産地表記について追加された項目は?

 2015年4月に食品表示法に基づく食品表示基準が施行されました。表示基準の経過処措置期間は5年で、2020年3月の完全施行があと2年に迫っています。

 食品表示法には、表示に関する2つの目的が第1条に示されています。1つめが「表示の役割は食品を摂取する際の安全性の確保」です。安全性というと製造時の安全性を挙げることもあるため、ここでは「摂取する際の」と表記することで消費者のための情報であることを強調しています。2つめが「消費者の自主的・合理的選択に役立つ情報提供」です。これは消費者保護基本法から消費者基本法へ、消費者が保護される時代から自立する時代へと移り変わったことに合わせ、消費者の権利を基本理念とすることが示されています。

 食品表示には様々なカテゴリーがありますが、基本的に上記の2つのどちらかの条件に属していることになります。

 食品表示法に基づく食品表示基準には、既存のものを改正した項目と追加された項目の2種類があります。

 追加された項目のひとつは問い合わせ先に関するものです。食品表示では事故が発生した場合の問い合わせ先を表示することが義務付けられています。これまでは食品衛生基本法に基づき、その地域の保健所が表記を見ればわかるよう製造所固有記号を記載するのみとなっていました。しかし、消費者にわかるようにするため、会社名や所在地の記載が必要になったのです。とはいえ2か所以上の製造工場があった場合、どちらも記載することは難しく、コストアップにもつながるため、同じ規格の同じ商品に限って2か所以上の工場で作る場合は、以前と同じように、ホームページを見れば氏名・名称や住所がわかるというような条件付きで製造所固有記号のみ表記も許可されています。

 今回の改正は安全性を優先しています。たとえばボツリヌス菌やL-フェニルアラニン化合物(甘味料のアスパルテームに含まれる成分)について、これまでは通知で行い規制対象になっていませんでしたが、改正後は基準化されることとなりました。



日本とコーデックスで相対表示の適用が異なる例(ナトリウムの場合)
また、食品表示を国際規格に合わせる動きも出てきています。国際規格には政府ベースのコーデックスと民間ベースのISOがあります。これまでコーデックス基準と日本の基準が整合しない点がありました。たとえば、「塩分カット」「甘さ控えめ」「低糖質」などの表記は日本の場合、100g当たりの成分に対し自社基準に比べての増減を絶対値で規定していました。しかし、世界的にみると相対値の増減の基準も規定されているため、今後は絶対値だけでなく何%以上を減らす、増やすといった相対値の基準も併せて条件とすることに変更されるようになります。

日本とコーデックスで相対表示の適用が異なる例(ナトリウムの場合)

 

 消費者基本計画に基づき、新たに検討課題となった項目は、①原料原産地表示、②インターネット、③外食・中食のアレルゲン、④遺伝子組換え、⑤添加物の5項目と、あとから加わった検討課題として機能性表示食品で機能性が不明確なものの扱いがあります。

 原料原産地については規制に関わってきます。これまでJAS法に則り、2つの条件がありました。1つめは「加工食品の品質はそこで使われる原材料の品質が大きく関わる」、2つめは「その原材料が加工製品の重量ベースで50%以上を占めるかどうか」という点です。

 しかしこの条件では、1つめの条件に合致しても、2つめに該当しないものが多くありました。たとえばおにぎりの場合、海苔は重要な要素ですが、重量としては少ないためこれまでは対象外でした。これと同じように2つの条件に合った食品は全体の11%しかなく、国産表記をするため自主的に表記している食品を合わせても全体の27%のみで、加工食品の73%が原材料表示義務の対象外だったのです。

 今回の改正により、原材料で一番重量の大きい原材料について国名を記載するルールが追加されます。ここで問題となるのがリンゴ果汁や砂糖など、すでに中間の原材料を使用している場合です。この場合、加工品なら(場所)製造、生鮮食品なら(場所名)産といった表示になります。また、たこ焼きなど、重量が最大でなくても重要な素材がある場合については、冠表示としてガイドラインレベルで表記することになります。

 毎回異なる地域のものを使用する場合や、原材料の仕入れ先が2カ国以上にまたがる場合、たとえばソーセージの場合、「豚肉(カナダ又はアメリカ)」といった表記に、3カ国以上の輸入となる場合は「アメリカ、カナダ、その他」といった表記に、季節によって仕入れ先が輸入・日本と変わる場合は「輸入又は国産」といった表記になります。

 今回追加となった5項目のうち、実際に規制に絡んでくるのは現時点で①原料原産地で、②のインターネットと機能性表示食品についてはガイドラインの扱いとなっています。

 ④遺伝子組換え、⑤添加物はパブリックコメントが多く、これから検討される課題です。まず、現在検討中の遺伝子組換えについてですが、代表的な食品である大豆やとうもろこしの場合、たんぱく質は熱や発酵により変性する性質があるため、加工時に遺伝子組み換えどうかが分かりにくく例外規定も多いのが現状です。

 巷によくある「遺伝子組換えを使用していない」という表示ですが、コンテナに残っていたものが混ざるといった少量の「意図せぬ混入」があることも認められています。日本では5%以下という基準がありますが、諸外国では3%、1%以下が一般的です。今後は日本もこのレベルに合わせるかどうか、現在検討している最中です。

 添加物については検討課題となっています。コーデックスは化学薬品のように物質名で記載または番号で表記します。日本では消費者がわからない方法で書いても意味がないという配慮から、ビタミンCや保存料といったような記載になっています。日本の添加物は非常に優れていますが、添加物メーカーは中小企業が多く、突然制度が変更となると対応しきれない可能性もあります。国際基準に合わせるとかえって消費者にとってわかりにくくなるため、広く消費者の声を聴く必要があります。

 消費者の中には添加物に対するマイナスイメージを持つ人が少なくありません。しかし品質を保持するためにも添加物は有効な成分であることも事実です。検討会を設置するは未定ですが、これを機会に添加物とはどういうものかということを消費者に正しく理解してもらうことも重要です。

 

●食品表示検定 初級・中級の受付を開始しました(4月17日〈火〉17:00まで)!

http://www.shokuhyoji.jp/html/guidance_bm.html

 

「一般社団法人 食品表示検定協会」とは

食品表示に関る人材の教育、食品表示の向上に関する情報収集・分析等、将来の消費者となる子供たちへの学習機会の提供を行うために設立された一般社団法人

■URL http://www.shokuhyoji.jp/

 

池戸重信

一般社団法人 食品表示検定協会 理事長

農林水産省食品流通局消費生活課長、独立行政法人農林水産消費技術センター理事長、公立大学法人宮城大学食産業学部教授、同大学副学長・食産業学部長等を経て、現在同大学名誉教授、日本農林規格(JAS)協会会長、クリエイティブ食品開発技術者協会理事長等。この間、消費者庁「食品表示一元化検討会」座長、内閣府消費者委員会食品表示部会委員等を務める。

 

文章構成:石山 真紀(ライター)

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