全社員の9割と“伴走する”AIメンター　アトレのDX型人材戦略が変える組織の常識

首都圏を中心に駅ビルを展開するアトレ（東京都）が、生成AIを“メンター”として社内に浸透させる取り組みを進めている。社内での呼称は「AIメンター」。社員のスキル向上や業務改善に寄与するだけでなく、AIを通じた「人の変化」にまで踏み込む構想だ。導入開始からわずか3カ月で社員の約9割が活用するようになった背景に迫る。

導入3カ月で利用率90％超！

　アトレが生成AIの導入を本格化させたのは4月のことだ。全社展開に先駆けてパイロット運用を実施し、Google Workspaceと連携するかたちで、Googleの生成AI「Gemini」を全社員に開放した。

　背景には、今後数年間で予定されている新規出店と、それに伴う労働力確保の難しさがある。同社では、採用を拡大するのではなく、社員一人ひとりの生産性と自律的成長を高める方向へと戦略を転換した。その中心に据えたのが、AIを社員の成長を支援し、学びを促す存在＝“メンター”として活用する新たな社内フレームである。

　この「AIメンター」は「Gemini」を中核とし、日常業務の支援に加えて、社員の学習進度やスキル向上を可視化して成長支援につなげる独自の仕組みだ。具体的には、議事録の要約、SNS投稿案の生成、紙アンケートのデータ化といったタスクを補助。さらにAIメンターは個人ごとの利用状況を社内専用のダッシュボードに自動的に蓄積する。継続利用日数や使用データ量、ツール連携の有無など複数の観点からスコアを算出し、レベルを1〜10の段階で表示する。

　こうしたゲーム感覚で自分の成長を可視化できる仕組みにより、ITに不慣れな社員も抵抗感なく活用ができている。　「AIによって社員がどう変わるか。その変化を上司がどうマネジメントするか。そこまで含めて“AIメンター”と呼んでいる」と、導入を主導したアトレ総合企画部の山本純平氏（取材当時）は説明する。

　社内利用率は、導入からわずか3カ月で95.5％に達し、抵抗感の少ない運用設計が成果として表れている。さらに独自のスコアリングにおける「エキスパートレベル（レベル6以上）」に達した社員は全体の67.0％を占め、社内全体に活用が浸透していることがうかがえる。「『最近レベルが上がりましたね』といったポジティブな通知が届く仕掛けもあり、自然と学習を続けるきっかけになっている」と、山本氏は話す。

勉強会と事例共有が浸透のカギに

　高い利用率の背景には、教育体制の整備と社内コミュニティの形成がある。アトレでは月1回、全社向けに、AI活用のアイデアを出し合う「アイデアソン」や、実践的なスキルを学ぶ「ワークショップ」などを開催するほか、週1回・30分の“プチ勉強会”を実施。さらに、Google Chat上に社員同士が学び合えるコミュニティを開設し、学習支援を多層的に展開している。

　加えて、現場での実践事例をインタビュー形式で集約し、社内全体に共有する取り組みも進めてきた。たとえば、「1時間かかっていた議事録の作成業務が10分で済むようになった」「複数の試作案を短時間で比較し、販促提案の質が上がった」など、現場目線の声が活用のヒントとして水平展開されている。

　こうした知見の共有を支えているのが、「業務用Gem」の社内ライブラリである。Gemとは、生成AI「Gemini」に特定の業務内容や文脈を与えてカスタマイズした“業務特化型プロンプト”のことで、誰でも再利用できる形式で蓄積されている。たとえば、SNS投稿案の自動生成、販促キャラクターのネタ出し、紙アンケートのOCR（光学文字認識）処理といった、現場社員が作成した実用的なGemが、他部署の業務改善にも波及する仕組みを形成している。

　こうしたツールは業務効率の大幅な改善に貢献している。社内からは「数日かかっていた業務が数十分で完了し、家庭との両立がしやすくなった」「育休明けでも無理なく職場に復帰できた」といった声も寄せられた。AIメンターは働きやすさを支えるインフラとしての役割も果たしつつあるのだ。

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