社内外でデータ活用人材を育てるグッデイのデータアカデミーとは?
皆が「できた」を実感できる教育
グッデイデータアカデミーの特徴は、教員免許を持つ小川由梨氏(カホエンタープライズ所属)とグッデイ社員を中心に開発した教育プログラムにある。小川氏は、数学に明け暮れた学生時代に教育実習も経験したが、すぐに教壇に立つ道は選ばなかった。「一度違う世界を見てから教育の道に進んでもいいかなと」。現在は、カホエンタープライズで他社のデータ活用の支援と、グッデイの人材育成を両立している。

そんな小川氏らが編み出したのが、「数学アレルギー」にも配慮したカリキュラムだ。数学という言葉を聞いた時点で身構えてしまう人も多い。できるだけ数式を使わず、専門用語も可能な限り身近な例を引き合いに伝える。
最も工夫が必要なのは、統計知識のばらつきへの対応である。学習指導要領の改訂により、世代によって学校で習う内容が異なるためだ。
「平均値までは皆さん大丈夫ですが、分散や相関係数になると、年齢が上の方は習っていなかったり忘れてしまっていたりする。グラフでも、棒グラフや折れ線グラフは皆さんイメージできますが、ヒストグラムや箱ひげ図になると途端に難しくなる」と小川氏。だれもが理解できるカリキュラムを心掛け、「わからない」が「わかった!」に変わる瞬間を大切にしているという。
もう1つの特徴は、あくまで実践重視であること。「教科書的な例題ではなく、グッデイの店舗データを使って具体的に示していく」と小川氏は話す。データは定期的に最新のものにし、即戦力となる知識とスキルの習得をめざす。
さらに、参加者の意欲と能力に応じた段階的な学習プログラムも用意した。「全員がマスターしてほしい基本編」と「もっと学びたい人のための発展編」に分け、それぞれのペースで成長できる環境を整えている。
小川氏に質問をしに訪れる参加者も増えてきた。まるで放課後の職員室のようだ。「質問をしに来た人が『わかった!』と笑顔で帰っていき、実際の業務で活用している姿を見掛けると本当にうれしい」(小川氏)。
学習効果は顕著に表れている。以前は現場任せにすると、「よその店がやっているから」「競合対策のためにこの価格で」といった感覚的な判断が目立っていた。しかし、グッデイデータアカデミーを通じて経営的な視点が浸透し始めると、より合理的な意思決定ができるようになったという。
柳瀬社長は「経営陣も気付かない細かな課題をデータで裏付けながら、現場主導の改善が進んでいる」と手応えを語る。
研修後も続く手厚いサポート
グッデイデータアカデミーは、毎年約10人、これまで延べ80人近いデータ活用人材を輩出してきた。しかし、研修での学びを現場で生かすには、想像以上に高いハードルがある。
この課題に応えるため、グッデイは23年、「データ活用推進部」を新設。5人のエキスパートが各部署の相談窓口となり、現場に積極的に溶け込んだ支援を行う。「いつでも相談して」と言うだけでなく、具体的な業務の困り事を丁寧にヒアリングし、一つひとつ解決の糸口を探っていく。
データ活用推進部の齋藤修平部長は、「データ活用の敷居を下げることが私たちのミッション」と語る。現場では、データ分析以前に、データの読み方・扱い方で戸惑っている場合も多い。
そのため、支援内容は「売上高は税込みか税抜きか」といった素朴な疑問に答えることから、データ更新作業の自動化まで多岐にわたる。似たような課題を抱える部署もあるので、共通の概念や手法を整理して伝えるなど、きめ細かなサポートを続けている。
加えて、グッデイデータアカデミーの卒業生が相談役となり、「教えることで自分も成長する」好循環が生まれ始めている。
データ活用はDIYみたいなもの
「データ活用の教育は、DIY教室みたいなもの」と柳瀬社長は語る。いくらよい道具があっても、データという素材の扱い方を知らないと、満足のいくものはつくれない。
24年からは「グッデイデータフェスティバル」をスタート。各部署でのデータ活用事例を発表し合い、表彰する制度を新設した。人事・総務部門では、健康経営の一環として社員の健康診断データを分析して健康管理に生かすなど、データ活用の領域は広がっている。
「データ活用の本質は、統計学にある」と柳瀬社長は言う。
「統計学とは、大量のデータを効率よく圧縮して、本質を理解するための考え方。これを学ぶかどうかで、データ活用の幅は全然変わってくる。AIが急速に発達していく時期と重なったが、AIのベースには機械学習や統計学がある。なんとなく『AIがあれば何でもできる』ではなく、『こういう仕組みだから、こう使える』という理解ができる人材が育ってきた」(柳瀬社長)。
グッデイは、AIとの協働が進むであろうこれからの時代を生き抜くモデルケースともなりつつある。
著者=酒井真弓
さかい・まゆみ●ノンフィクションライター。IT系ニュースサイトのアイティメディア(株)で情報システム部、イベント企画を経て、2018年フリーに転向。広報、イベント企画、コミュニティ運営、イベントや動画等のファシリテーターとして活動しながら、民間企業から行政まで取材・記事執筆に奔走している。日本初Google Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu’e’r(ジャガー)」のアンバサダー。著書に『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)、『ルポ 日本のDX最前線』(集英社インターナショナル)など
本項は以上です。続きをご覧いただく場合、ダイヤモンド・ホームセンター12月15日号をご購読ください。