店舗DXの実現に必要不可欠な、「顧客視点」でのデータ活用手法!

平川 義修(株式会社CA無人店舗取締役)
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POSデータ、顧客データ、商品データ……と小売業界にはデータがあふれている。それらのデータを業務効率化のためや新事業に活用している小売企業は多い一方で、顧客の「購買に至るまでの行動」を読み解くためにデータを活用できている企業はまだ少ない。データを店づくり・売場づくりに生かすために必要なことはなにか。また、「データ」を理解することでどんなことが実現可能なのか、海外の事例を交えながら解説する。

データを活用するためには“課題設定”が不可欠

 「データはあるが、活用ができていない」という悩みをよく耳にする。これは「必要なデータを集められていない」か、「データは集まっているが、何に生かしたいのかがはっきりしていない」ためだろう。

 たとえば、小売企業の本部が各店舗の売上を把握し、在庫管理や発注管理などの店舗運営業務の根幹の部分を効率化しようと、売上をPOSでデータ化していたとする。それを「ほかにも活用できるはずだ」と安易に考えてはいないだろうか。このPOSデータを「実際需要予測」や「価格最適化」などに生かそうとした場合、追加でデータを集めて、POSデータと統合するなどの余計な工数が発生してしまう。このように、解決する課題の設定によっては余計に手間がかかってしまう結果となる。

 データを生かすうえで最も大事なことは、データを活用して「なにを成し遂げたいのか」を、最初に設定しておくことである。上記で例に出した小売企業が、当初POSシステムを導入したのも売上を可視化するためだったはずだ。「実際需要予測」や「価格最適化」に生かそうとは考えていなかったために、余計な工数を踏むことになってしまったのである。

 本連載の第1回で述べたように、データを集めるだけなら、それはただのIT化だ。「データを使って何をしたいのか」を考え、それを使ってお客に価値提供することこそが「DX」なのである。

”顧客の視点”をデータから読み取るには……

 店舗運営における「データ」の価値は、顧客の「購入する過程」をどこまで深く理解できるかによって変わってくる。現在のPOSシステムなどのデータから理解できることは、購買の「結果」のみだ。つまり、結果はわかっても、「なぜそうなったか」という過程がわからないのである。

 簡単な例でいうと、ある店の売上データから生鮮食品より加工食品のほうがよく売れているという結果が導き出されたとする。しかし、「なぜ生鮮食品が売れないのか」までは売上データだけでは把握できないため、生鮮食品の売場を縮小して加工食品を拡充すべきなのか、あるいは何らかの施策を打てば生鮮食品が売れるようになるのか、方針が定められない。

 結果だけではなく、購買に至るまでの過程を理解することは、顧客を理解するうえで非常に重要である。たとえば、アメリカのシアトルに拠点を構えるIT企業AVAリテール(AVA Retail)社は、「店内の出来事」を可視化することに長けており、食品スーパーや家電量販店で人々が商品を購入するとき・購入を見送った時の行動の傾向をそれぞれ分析し、施策を立てている。

AVA Retailで可視化できるデータの例(施策前後での店内行動の変化を可視化)
AVA Retailで可視化できるデータの例(施策前後での店内行動の変化を可視化)

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