イケアのオムニチャネル戦略
イケア・ジャパン株式会社
カントリーデジタルマネジャー
野崎 智子 氏
「満足していない」お客さまも多いという現実
イケアが本格的にECに乗り出したのは2017年と決して早くはない。それ以前は全国に9カ所の大型店舗イケアストアがあり、愛知県に大型物流倉庫1カ所、1カ所のカスタマーサポートセンターを設置していた。
日本の場合、物価が高いことや首都圏に人口が集中しており、より効率的に顧客に寄り添うことを目的に、まず17年にIKEA.jpを開設。さらに20年にはIKEA Appの提供を開始。それと並行して20年にはIKEA for Business渋谷、IKEA原宿、IKEA渋谷、21年5月にはIKEA新宿を開店するなど東京への展開を始めた。
オンラインなどデジタルのトランザクションが増えることで、膨大なデータが集まるようになった。その一方で、コロナ禍によりオンライン利用が増大したことで、カスタマーサポートセンターへの入電数は前年よりも40%増加した。イケアが扱うホームファニッシング商品は小物もあれば、大きな家具もある。商品の問い合わせや、中には組み立て方がわからないという相談もある。アンケートを実施し集計してみると、「電話したけどつながらない」ことによる放棄呼が増加し、結果として「満足していないお客さま」が増加してしまった。つまり「お客さまに追いつけていない」という実態が明らかになった。
オムニチャネルに対応するビジネスプロセス構築から開始
店舗販売のアナログのビジネスでは自信も実績もあった。しかしそれではニーズに追いつけない。そこでイケアでは、オンライン販売では非常にシンプルなモデルを考えた。まずベースラインを整えて、そこから追加する価値やさらにお客さまの期待を上回るような仕組みを構築していくことにした。
ベースラインとして取り組んだのは、オムニチャネルに対応するビジネスプロセスの確立やデータを意思決定の中心とすること。そしてDXはそれらを達成するための手段として位置づけた。家具を売るだけでなく、組み立てや部屋に合わせた色や配置などのコンサルティングサービス、そしてお客さまへアドバイスする仕組みも整えていく必要がある。
コロナ禍で実感したことは、オンラインでもオフラインでも同等のサービスが求められているということ。カスタマーサポートセンターはお客さまとイケアのタッチポイントとして非常に重要。オンライン化でお客さまの多様なニーズに対応しなければならない。とくに購入後に家具を組み立て、つまりプランニングする際にサポートが欲しいというニーズに対応するためリモートプランニングを実施するなど、オンラインショッピングのサポートも行っている。
チャネルとチャネルをつなぎ、より良い体験を拡張する
多チャネル化したことで、それをどう繋ぐかが課題となる。最初はがむしゃらにアピールするだけで原則などはなくコミュニケーションしていた。やはりチャネルとチャネルをつなぐ大原則は必要とわかり、「より良い体験を」「拡張・さらに体験を広げる」「補う・特定のチャネルでは提供できないものを提供する」の3つであると考えた。
小規模のシティショップでは、「展示されていない商品を見たい」というニーズがある。そこでデジタルショールームでそれを見せる。つまりシティショップとオンラインと店舗をつなぐというわけだ
また、この商品についてもっと情報が欲しいというような顧客ニーズに関しては、IKEA原宿でテストアプリを使った実験を行った。商品のQRコードを読み取ることで、ARにより色違いの商品や部屋に配置したイメージなどを表示する仕組みをテストした。これにより規模が小さく、郊外店のように多くの商品を置けない小規模のシティショップでも、店頭にはない商品を顧客がデジタルショールームで見ることも可能になる。さらに、「自分の部屋にあったインテリアがわからない」という顧客ニーズには、ウェビナーを通じたコンサルティングで対応できるようにした。
また、クレームの多い会計時の混雑に対しては、IKEAアプリにScan&Payという機能を実装し、QRコードを読み取って会計が完了する仕組みも取り入れ、スピーディなチェックアウトを実現した。
多チャネル化の中でもコワーカー(店舗スタッフ)の役割は重要だ。コワーカーは最初のヒューマンタッチポイントであり、お客さまをチャネルからチャネルへスムーズに案内するホームファニシングのエキスパートでもある。カスタマージャーニーを向上するためにも、コワーカーの存在が重要だと認識している。
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