NY在住リテールストラテジスト・在米中小企業診断士
ジェトロ中小企業海外展開現地支援コーディネーター
平山 幸江 氏
EC・小売市場トップ10社の市場占有率は66.9%に
米国の小売業販売額は、全米での外出禁止令の影響もあり20年4月には-20%まで落ち込んだが、21年3月以降はワクチン接種が進んだこともあり、大幅な成長に転じた。5月以降は伸び率が低下したが、それでも8月は前年比15.1%増。コロナ禍以前の19年8月と比べても17.7%増となった。ECの指標となる無店舗販売は、コロナ禍で20年3月以降、30%近い成長を続けたが、21年に入って4月以降は伸びが鈍化している。継続するコロナ感染対策、インフレの進行などマイナス要因はあるものの小売業販売額はECを含め堅調に推移している。
そのECの売上高シェアは、米国商務省や調査会社のデータから約15.0%と推計され、コロナ禍以前の10.7%から大きく増加。今後、成長率8%で推移すれば、24年には19.2%と20%に近づくと予想されている。
ECシフトが進む中で店舗の役割も変化
ECシフトが進む中で店舗の役割が変化している。従来の店舗営業に加え、ECフルフィルメント拠点やラストマイル配送拠点、ECサービス拠点としての機能を担うようになってきた。ウォルマートは店舗のフルフィルメント化のために、新しいアプリケーションを開発。オーダー商品を探すときには、カメラをかざすだけで商品を判別し教えてもらえるようにした。
消費者は店舗とECの両方を利用している。そのため求められる顧客体験も変化してきた。EC利用者の70%は店舗も利用しているという調査もあり、店舗とオンラインのシームレスな体験が求められている。パーソナライゼーションは以前から重視されてきたがAIの利用が進み、一層、消費者個人の特性やニーズに焦点を当てたアプローチが可能になってきた。
店舗の役割が変化したが、リアル体験の場としての役割は不変。特に新たな発見を今まで以上に提供することが来店動機高揚に不可欠というのが米国小売業界の認識となっている。SNSから直接購入できるサービスもあるが、外出禁止期間はライブ動画を見ながらそのまま商品を購入するソーシャルコマースも拡大した。
DXによる新たな顧客体験の提供で業績を拡大
シームレスな体験の事例では、アマゾンが21年6月に開業したアマゾンフレッシュが 挙げられる。ショッピングカートにカメラ・センサーを取り付けたスマートカートを導入。アマゾンゴーと同じ、「ジャスト・ウォーク・アウト(JWO)システム」によるレジレスを採用したほか、現金や生活保護カードでの支払いもできる。これを進化させ来年開店するホールフーズマーケットにもJWOシステムを導入する計画だ。アマゾンはJWOシステムに続き、手のひら認証の「アマゾン・ワン」を開発。すでに全米のアマゾンゴーなど60店舗に展開している。
クローガーも21年1月にケイパー社とスマートカート「クロ・ゴー」のテストを開始した。アマゾンとは異なり店舗ではレイアウト等、何も変えずに導入した。財布やクレジットカードはカート手前のバスケットに置き、カートにはマイバッグを配置。ポイントカードをスキャン、商品を選びクレジットカードで決済して退店となる。そのほかにもウォルマートはAIを使いEコマースオーダーが欠品の場合、自動的に代替品を推奨するなど顧客対応向上を図っている。
ハイパー・パーソナライゼーションのケースでは、ニーマンマーカスが20年3月からアプリ「NMコネクト」をパーソナルスタイリストに供給し、オンラインで店内接客同様に接客しストアピックアップをアレンジしている。アプリ導入以降、3カ月で約4900人の販売員がオンライン販売以外に6000万ドルの売上を追加できた。
レゴストア・マンハッタン店が、まさに「発見」のある店舗。モニターで自由にフィギュアをデザインしブロックで作れる「ミニフィギュア・ファクトリー」や自分の顔写真をブロック化できる「モザイク・メーカー」を設置し新たな体験を提供している。
ソーシャルコマースでは、18年に創業したライブショップアプリ「NTWRK(ネットワーク)」が人気だ。知名度の高いパーソナリティがライブ配信で限定商品などを紹介し、リアルタイムで販売している。
ECシフトが起こるとともに、店舗の役割も変化しECをサポートするハイブリッド型に移行してきた。米国小売市場では、こうした変化に対応してDXによって店舗とECの顧客体験をシームレスに提供する革新が加速している。
各プログラムの詳細
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