「面倒くささ」を解消したセブンイレブン「手巻きおにぎり」誕生秘話
コンビニエンスストア業態の特性をベースに独自に開発されてきた「コンビニ食」。代表ともいえるのが業界に先駆けて導入したセブンイレブンのおにぎりがある。いまやどのコンビニにも欠かせない商品だが、そのアイデアのもとにあったのは、いかに「面倒くささ」を解消するか。流通ジャーナリスト梅澤聡氏の著書「コンビニチェーン進化史」からその開発秘話を一部編集してお届けする。
業態にあわせて進化してきた「コンビニ食」
前述のように、「おにぎり」はおでんや中華まんと並んで、コンビニが市場を独占した品種であり、鈴木敏文の独創のように現在でも語られている。米飯弁当も、持ち帰りチェーンは存在するが、コンビニが圧倒的に市場を支配している。 セブン‐イレブンが4000店舗を超えた1990年当時、鈴木は次のように答えている。
みんな弁当を持っていったり、弁当箱に詰めたりすることは面倒くさいと思うようになってきた。米の需要はあるんですから、それをもっとみんながたやすく 手に入れることができるようにすれば、弁当に需要があるのは当たり前なんです よね。需要のあることをやるのが、一番間違いないことなんですよ。 ( 『食品商業』1990年10月号)
いわゆる「コンビニ食」として日常に定着した商品は、百貨店でも、スーパーマーケットでも、専門店でもない、コンビニ業態の特性をベースとして開発が推進された。例えば、スーパーマーケットが惣菜を扱うときに、和惣菜、洋惣菜、中華惣菜といった 分類や、煮物、焼き物、炒め物、揚げ物といった食材と調理法の拡大によって、品揃えを 充実させていく。
一方のコンビニは、他の小売業と異なる軸により、優位性を発揮しようとした。その代表格が「おにぎり」や「米飯弁当」であり、鈴木敏文の言う「面倒くささ」の解消、利便性である。コンビニは草創期から24時間営業の実験を始めて、80年代には大半の店 舗が24時間営業に移行した。当時のOFC*は、「釣りに行く人たち」をよく例に出して、おにぎりの需要を説明していた。
*編集部註:オペレーション・フィールド・カウンセラーの略、店舗経営相談員
一般客を乗せる釣り船は、朝6時から7時ごろに出航して、12時ごろに帰港する。家 族で楽しむ趣味ではなく、「お父さん」が早朝4時くらいに起き、身支度を整えて車で家を出る。家族は就寝中なので、朝食もなく、まして弁当の用意もない。「仕方なく」港へ向かう途中のコンビニに立ち寄って、おにぎりを買い、出航前の現地で朝食を取る。
同じように、早朝スタートのゴルフやイベントなどで、コンビニのおにぎりは大きな需要がある。コンビニが登場する以前は、家庭のお母さんが握ったおにぎりしかなかったが、朝食をコンビニに任せているうちに、全時間帯の需要をコンビニが担うようになった。