業務用カラオケシステム「DAM」の販売・賃貸事業やカラオケルーム「ビッグエコー」の運営などを行う第一興商(東京都/保志忠郊社長)が近年、少人数向けカラオケシステム「COCOKARA(ココカラ)」の販売・賃貸事業に力を入れている。COCOKARAは、感染拡大が落ち着きを見せ始めた2022年から、ショッピングセンター(SC)を中心に導入が進んでいる。小売店にとっては同システムを導入することで具体的にどのような効果があるのだろうか。第一興商の常務に話を聞いた。
顧客の新たな来店動機に
第一興商が開発を手がけるCOCOKARAは、幅と奥行きが150cm、高さが210cmの小型カラオケボックスだ。ブース内には2脚のイス、4つのヘッドホンがセットされ、最大4名まで入室できる。料金は設置するロケーションによって異なるが、多くの場合は100円で1曲の設定にしており、マイクを通して歌うと曲のBGMと自身の歌声がヘッドホンから流れる仕様だ。カラオケ機器は第一興商のカラオケシステム「DAM」が搭載されており、通常のカラオケ店と同等の曲目数をラインナップする。
現在、COCOKARAはSCを中心にホームセンターやゲームセンター、ボウリング場などのアミューズメント施設で設置が進んでいる。同機器は19年10月に発売したが、ほどなくしてコロナ禍に突入。カラオケそのものの利用者が減り、導入数が伸び悩んだ。しかし、コロナ禍が落ち着き始めた22年になると、約50台が新たに導入され、23年6月現在の合計導入数は約70台を突破している。
小売店にとっては施設内の遊休スペースにCOCOKARAを置くことで、集客やお客の滞在時間の増加を期待できる。一部のショッピングモールでは、COCOKARAがフードコートの売上増に寄与しているケースもある。ほかにも、「普段は商業施設を利用しないもののカラオケが好きなお客」が来店するきっかけにもなっているという。
第一興商の取締役兼常務執行役員・営業統括本部長の大塚賢治氏は「カラオケ目当てで来店するお客さまはとくに10代前半が多く、商業施設内で『ついで買い』をするといった動向が見られる」と話す。
防犯の観点からCOCOKARAのブースはガラス張りとなっており、消防法に基づく措置として、天井部を空けなければならない。大塚氏は「ブース自体は密閉されていないことから、歌声が若干聞こえてしまう場合もある。ゲームセンターなどにぎやかな場所に設置して成功した実績が多い。静かな場所では当社が提供する小型スピーカーをつけてBGMを流すといったサービスも可能だ」と話す。
COCOKARAの設置にあたっては、小売店が本体(筐体)を購入し、カラオケ機材と周辺機器を第一興商からレンタルするという契約が最も多いが、機材をすべてレンタルして売上を第一興商と折半するなど、小売店の希望に合わせてさまざまな契約が可能だ。本体は組み立て式で、本体の荷重(約400kg)に耐えられ、電力供給が可能な場所であればどこでも設置できる。
COCOKARA事業発足のきっかけ
第一興商がCOCOKARAを開発した目的は、気軽に歌える場所を増やし、カラオケをより身近なレジャーにすることだ。一般的にカラオケができるのは、カラオケ店やスナックといった施設に限定され、しかもそのほとんどが時間制のサービスであるため、気軽に1〜2曲だけ歌える場所は少ない。第一興商は、1曲ごとの料金で手軽に利用が可能なCOCOKARAを普及することで、カラオケ利用者の裾野を拡大したい考えだ。
事業に取り掛かった当初は、中国を中心とするアジア圏で普及していた他国のミニカラオケ事業を参考にしたという。そのミニカラオケはCOCOKARAと同じく1曲ごとに料金を払う電話ボックス型で、空港やショッピングモールなどに設置されることが多く、最盛期にはアジア圏で約15万台以上が稼働していたそうだ。そうした事例を知った大塚氏は「カラオケ文化が盛んな日本なら、少人数向けカラオケ事業は十分に定着し得ると考えた」と話す。
カラオケ利用者の裾野を拡大するための取り組みとして、第一興商はコンビニエンスストアやスーパーマーケットにカラオケ設備を併設する事業も手掛けている。14年にはファミリーマート(東京都/細見研介社長)と業務提携を結び、数十室のカラオケルームを一体化した「ファミリーマート+カラオケDAM」を東京都大田区や千葉県松戸市に出店した。第一興商はCOCOKARA事業を含むこれらの取り組みを全国各地で展開していく方針だ。
「これまでCOCOKARAは、ホテルや旅館、コインランドリー、オフィスの休憩室のほか、珍しい例では関東鉄道(茨城県)の常磐線駅構内への導入実績がある。今後も業態を問わず導入を増やし、近い将来、まずは500台をめざしたい」(大塚氏)