トライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長)は4月19日、メガセンタートライアル新宮店をスマートストアとしてリニューアルオープンした。3000坪を超す大型店をスマートストア化するのは初。スマートストア化により、顧客の非計画購買をコントロールすることに加え、店づくりそのものも従来のトライアル店舗とは大きく異なっており、消費者の感性に訴えかける売場を初めて作り上げた。2019年、業界人がまずは見るべき店である。
お客の状況に合わせ、提案内容を変える!
メガセンタートライアル新宮店は、1Fが食品、2Fが衣料・住関連で構成される売場面積約3600坪の大型店である。同店は福岡市のベッドタウンとして人口急増中の新宮市内にあり、改装前から同社のフラグシップストアとして福岡県内でも最大の売場面積を誇る繁盛店であった。最寄駅はJR「福工大前」駅で、博多駅から15分ほどで着く福岡市郊外の駅(福工大前駅は福岡市東区)。そこから徒歩約16分で新宮店に着く。
同店の取り組みは大きく2点ある。1つ目はスマートストア化によって、顧客の購買行動を変える仕掛け、そして2つ目は売場づくりと商品政策を大きく変えて、お客が“ワクワクして、つい買ってしまう”店づくりだ。言い換えれば、スマートストア化と新たな売場づくりを導入することによって、リアル店舗の魅力を最大限に高めている店だということだ。
トライアルQuick大野城で一部時間帯を無人運営にしたことから、トライアルのスマートストアとアマゾンゴーと比較するメディアも多い。だがこれを鵜呑みにしてはいけない。トライアルのスマートストアの本質は、アマゾンゴーなどが進める無人店舗の方向とは180度異なり、店舗における顧客の購買行動を変化させることにある。つまり、マーケティング活動の意味合いが強いのである。
「リアル店舗の良さは、サービス、買い物の楽しさ、そして計画していない商品に出会う点にある。一方ECは、計画したものをさっと買う便利さとデータを使ったマッチングに強みがある。お客はネットで全ての買い物が成立するわけではなく、リアル店舗は新しいテクノロジーを使って進化し、お客により良いサービスを提供すべきだ。トライアルとしては楽しい売場、良い商品がお手頃で変える売場を作ることで、購買行動の8割を占める非計画購買において、トライアルで買って頂ける割合を最大化していきたい」とトライアルホールディングスの西川晋二CIOが語っている通りだ。
さて新宮店は、過去最大規模の店をスマートストア化したという点で初の取り組みになる。1500台のAIカメラを使って、店内商品の欠品を効率的に防止するとともに、顧客の状況に応じてサイネージの提供映像を変えることで、購買行動に変化を促す。今回トライアルのAIカメラで行うことは、①店頭の棚在庫状況の認識、②目の前のお客の状況の認識だ。
②では今回店内にある200台のデジタルサイネージのうち、1箇所で実にユニークな取り組みを行なっている。それは、お客がカートを使って買い物をしているか、そうでないか(つまりカゴを持つか、手ぶら)を認識して、それに応じた規格の商品の広告をサイネージに映し出す点だ。
お客がカートを押してAIカメラの近くに来た場合は飲料のケース入りの広告をサイネージで映し出し、カゴを持っている場合やカゴも持たない場合は飲料1本の広告を映し出す。顧客の状況に応じた、最適な広告を出すことで、お客の購買行動を変えるねらいがある。随時この実験を広げていき、まずは50台のサイネージでこの仕組みを導入する考えだ。
次のページは
AIカメラを使った広告の未来とワクワクする売場づくり!
プロモーションの新たな可能性示すとともに、売場づくりの進化がスゴイ!
今回の実験は、カートか非カートかをAIカメラで認識して、前者であればケースを後者であれば単品を訴求したものだが、一見すると「だからそれが何なのだ」「それにどれほどの効果があるのか」と思う向きもあるだろう。だがこれは完成形ではなく、あくまでも実験の1つ。トライアルとしても、現時点ではどんな手法が顧客の購買行動を大きく変えるのかについて研究中だ。肝心なことは、顧客の状況をAIカメラで認識して、それに応じた最適な表現で顧客に訴求できるという事実だ。店頭メディアとして最適なクリエイティブ手法や表現方法を研究していけば、既存のオンライン広告やマス広告、店内の静的(Static)なPOPにはない、新しいメディアとして成立することが期待できる。その意味で、プロモーションの新たな可能性を示した店舗と言えるだろう。
さて、売場づくりについてもトライアル新宮店は見るべきところが多々ある。食品売場のダイナミックかつライブ感ある生鮮売場と、サイネージをベースとしたその日の“ウリ”がすぐにわかるグロサリー売場、そしてターゲットとドン・キホーテの売場をいいとこ取りしたような2Fの衣料・住関連売場だ。
食品売場は対面売場やインストア加工を多用した売場で、最近の食品スーパーや総合スーパーのトレンドが凝縮されている。とくに総菜売場では、壁面の寿司コーナーで「贅沢を少しずつ」と言うシックなPOPを掲げ、品質感をアピールしながら、値段は盛り合わせ8貫399円、同9貫499円と激安。インストア製造の手羽先唐揚げは1本59円、豚バラ炙り焼きは同298円で、店内のアイランドで山積みにしてボリューム感と安さ感を打ち出す。この他、魚総菜、中華総菜、1ピース99円(ホールでは792円)のピザ、1個159円の皿盛りの肉団子などを展開し、品揃えの幅が広く、バラエティ感が豊富なのが特徴で、頻度高く来店するお客を飽きさせない売場をつくる。このほか鮮魚では店内製造の干物を販売するなど、”この店ならでは”の取り組みも行なっており、食品売場のレベルが一気に引き上げられた印象だ。
2Fは衣料品売場でVMDとサイネージを活用した見やすくわかりやすいアパレルコーナーが見所。マネキンを使ったものに加え、サイネージを3台、縦に並べたものを置き、コーディネート提案を行う。後者ではトップス、スカート/ボトムス、クツ/サンダルのコーディネートを複数提案して、総額も表示する。売場は商品の陳列数量を抑えめにしてVMDを多用している点も参考になる。
住関連売場では、従来は直線型の商品配置だったが、曲線を多用して変化を持たせ、売場の奥まで行きたくなるような売場にした。売場ごとのディスプレイに力を入れ、何売場か、そして今何が売りなのかが一目でわかるようこちらもVMDを活用。綺麗に陳列していても無機質な売場では、購買においてお客の背中を押すことはいまの時代は難しい。勝手に売れる店ではなく、選ばれる店、売場づくりを行なっている。
このようにトライアル新宮店は、テクノロジーと人手の両面をフル活用して、リアル店舗ならではの価値、楽しさを提案する店となっている。