「2000円オフ」でも心が動かない!? 生活者の視点で「クーポン」を考えてみた

島袋 孝一 (株式会社Preferred Networks マーケティング)
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「2000円オフのクーポン」を撒いても反応しない人がたくさんいる理由

 さて、前述のクーポンのリストに、「新興宅配サービスのめっちゃお得に見えるクーポン(初回2,500円以上利用で2,000円オフ…など)」というものを挙げました。

 いくら客寄せのためとはいえ、既存の小売業の皆さまからすると、そんな大盤振る舞いなクーポンなんて発行できない、と感じていらっしゃるかと思います。大丈夫です。正常な反応です。一般的にクーポンは、顧客の行動変容を促すためのトリガー・きかっけの1つ。どの事業者にとっても、その原資は無限ではなく、有限です。ただし、割引金額やコミュニケーションプランは千差万別、ということなのです。

 例えば、僕が長年勤務していたパルコでも、「クーポンきっかけの来店・購買の単価」の方程式というものが存在しています。さすがに詳細はここでは書けませんが、どこの企業でもある利益構造(粗利益率)から逆算するだけの話です。

 先に事例として出した「新興宅配サービス事業者」は、既存の小売事業者に比べて歴史は短いですが、多くのデータを扱う中で、顧客生涯価値(LTV)の算出を起点に、新規顧客獲得単価を割り出し、最適なクーポン配布を行っているのです。2,000円クーポンという価格は通常の小売からみると異常な高値に思えるかもしれませんが(実際高いのですが)、将来を見込んだ売上高から逆算すると最適な数値、という判断なのです。また、デジタルを起点としているが故に、絶対に複数回利用はできない仕組みになっています(多くの事業者が、複製可能なEメールではなく、SMS=携帯電話番号での個人認証を実施しています)

 ただし、2,000円クーポンをポストにバラ撒いても、「心が動かない」人も一定数いるのが、クーポン施策のおもしろいところでもあり、難しいところでもあり、深いところでもあります。金額によるきっかけ以上に5W1Hを意識しないと、受け取った人にそもそも響かない、または、受け取った瞬間には「いいな」「行こうかな」「使ってみようかな」と思っても、その熱量が文字通り刹那的・瞬間的なものとなり、忘れられてしまったり、失効してしまったりすることは日常茶飯事です。

 また、デジタルのクーポンなどは数字が丸裸になるので、「不都合な真実」を知ることになる覚悟も必要です。インターネットのバナー広告のクリック率(CTR)が1%にも満たない、つまり100人が見ても1人しか広告をクリックしないという今日。クーポンを何万件配信し、何件来店・購買があったかを知ることは、小売のマーケターにとっては、知りたいようで、知ること自体が恐ろしいと感じてしまうかもしれません。

意思のないクーポンのバラマキは既存の顧客にとっても”残念”!

 惰性で”意思のないバラマキ”をしているようならば、今すぐ再考すべきです。それは自社にとっても、また既存の顧客にとっても意味をなさない残念な施策以外の何物でもありません。

 なぜ「既存の顧客にも残念」なのか? 自社の利益の源泉は、すでにお店やブランドを愛していただいている方々の継続購買のおかげで成り立っているからです。このことを忘れてはなりません。

 「新規向けのクーポン施策だから〜」といって、既存の顧客の目に入らないわけではありません。顧客の輪・コミュニティを広げていこうとするとき、既存の顧客が何をきっかけに利用するようになり、何を好きになって継続利用するようになったかをあらためて検証する必要があるでしょう。その顧客にとっても、初回のタッチポイントは「クーポン」だったかもしれませんが、「その後」を知ることは、自社の事業を多面的に見る転機になるかと思います。「答えは顧客にある」のです。

 というわけで今回は、「クーポン」についていろいろ思い巡らせてみました。みなさまの「クーポン思考」の再考のネタになれば幸いです!

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記事執筆者

島袋 孝一 / 株式会社Preferred Networks マーケティング

2004年パルコ入社。店舗リーシング・宣伝・オムニチャネルを担当。2016年総合飲料メーカーキリン入社。グループ横断デジタルマーケティングを担当。2019年1月ヤプリ入社。未上場期〜コロナ禍のマーケティングを牽引。2022年1月より株式会社Preferred Networksに参画。

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