【特別提言】
流通・小売業界の“勝ち組”のイノベーションとは
アクセンチュアが提案

2012/02/21 14:39
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ハイパフォーマンス・リテーリングを実現する、経験・実績に裏付けされたソリューション

 流通・小売業界は、長引く消費不況の中で経営改革に取り組み、業界再編や企業淘汰も進んでいる。厳しさを増す外部環境は、流通・小売業界にさらなる変革を迫り、従来の取り組みの延長線上にはない新たなイノベーションが必要になっている。グローバルリテーラー、国内リテーラー双方の成長戦略をサポートしてきたアクセンチュアでは、流通・小売業界が直面している課題のなかで、とくに重要なテーマに関する課題を提起するとともに、実証済みの新しいソリューションを提案する。

志俵 克史 アクセンチュア シニア・プリンシパル 流通・小売業界 スペシャリスト

―― デジタル・マーケティング&コマース ―――

“今”こそ、デジタルと向き合う

  日本のネット販売の売上は、すでに10兆円に迫る規模であり、今後5年で15兆円程度に拡大すると予想されている。こうした状況下で、小売業にとってはECやネットスーパーをはじめとして、社会の変化にどのように対応していくかが今後、小売業が直面する、逃れようのない大きなテーマとなっている。

 しかし、EC・ネットスーパーの場合、すでに先行して投資を行っている大手企業や海外勢の企業が、必ずしも順調に急成長しているわけではなく、投資とコストの負担が重くのしかかっているのが現状である。そのような環境の中で、先行き不透明なデジタル事業の展開については、どのタイミングで、どのくらいの規模で踏み出すのかという決断は非常な困難を伴う。もちろん、この問題に対する正解は存在しないだろう。しかし決断できるとすれば、それは“今”である。すでにデジタル事業を展開している小売業は“今”、見直しを図るべきであり、未着手の小売業は“今”、成長のための展開に着手すべきであろう。

 なぜ“今”なのか。それは、SNS(ソーシャル ネットワーキング サービス)のようなデジタル時代の先頭を行くという発想ではなく、小売業のビジネス視点でデジタル社会に生き残るために、どう対応すべきなの
かという視点で、デジタル・マーケティングとネット販売に代表されるデジタル・コマースを、戦略的に切り分けてとらえていくということが重要なのである。

シニア・スマートフォン時代に備える

 長年、日本の小売業のマーケティングの主役はチラシが務めてきた。このマーケティング手法は日本特有と言ってもいい。ほぼ全世帯に行き渡っている新聞宅配インフラを背景にしたチラシ販促は、コストとRO(I 投下資本利益率)においてきわめて優れており、そのためにEDLPを戦略の柱にした海外流通業の成功モデルが、日本で必ずしも成功していない。

 そして、チラシ販促の将来については断言できないが、今でも十分優れた、かつ強力なマーケティングの手法である。ただ、現状では社会のデジタル化で新聞離れが着実に進行している。そのため、新聞の発行部数が毎年100万部ずつ減少している。とはいえ、まだ全体で4500万部もあり、今後、部数の減少が加速する可能性が指摘されているものの、すぐになくなるメディアではない。新聞の発行部数の減少は全国紙が主であって、今後、地方紙までなくなるのか、実態は若者の新聞離れ中心でとどまるのか、シニア層まで離れていくのか、誰も将来を予見できないのが実情である。

 一方、社会のデジタル化の進展によって、スマートフォンが急速に普及している。2011年の普及率はすでに20%となり、携帯電話に対する出荷シェアは70?80%になっている。スマートフォンの急速な普及は、これまでとは異なる市場を形成するとも考えられる。若者だけではなく、中高年層や女性にもスマートフォンが普及しはじめており、すでに通信事業者やキャリアメーカー開発が、スマートフォンにシフトしているという状況だ。携帯電話とスマートフォンの両者に等しく開発投資することは、現実的に考えにくく、しかも価格面でも携帯電話より低価格で提供される業界力学が働いている。つまり、消費者の意向だけではなく、供給側の論理がそれを増幅し、普及が加速すると思われる。 

 

 そのスマートフォンという携帯電話に比べ、はるかにPC的なデジタル環境が急速に消費者の手元に普及することで、小売業にとって「顧客へのアクセス・パスがない」「チラシでリーチできなくなったときに代替がない」などのリスクが今後、増えていくと予想される。それを見据えると、顧客管理やポイントプログラムやSNSなどの必要性とは異なる次元で、モバイル会員の拡充やアクセス・パスの整備は少なくとも考慮すべきである。

 会員化の話が出るとすぐに思いつくのが、「One to Oneマーケティング」や「セグメントなどのCRMとデータ分析」である。しかしここでは、そのようなアプローチを切り離して、まずは全会員へのメール配信、見せるクーポン展開、店頭・チラシとの連動などマス展開のツールとしての活用を提案したい。そして、世界レベルで展開され競争が激しいデジタル・マーケティング市場の中で戦いを挑むのではなく、より重要なリアル店舗と連動したマーケティング、とくにレシートなどの活用をめざすべきだと考える。

 レシートは、主婦や高齢者は受取率が高く、しかもしばらく保管しておく傾向がある。これがデジタル時代であっても、なくなるとは考えにくく、むしろデジタル・マーケティング時代を見据えて、データ活用のためにPOSシステムの改修などが必要だとしても、投資する価値はあるだろう。

リアル店舗の顧客基盤を守る

 ネット販売を食品カテゴリーでみると、2011年が前年比約16%増の約3000億円、ネットスーパー市場は同年に、同37%増の約800億円と伸びている。しかし現段階では、確かに参入しないとリスクがあるとまではまだ言えない規模だ。ただ、大手の小売業のネットスーパーが出揃い、事業拡大に本腰を入れてビジネス基盤が整ってきており、さらに消費者側のデジタル環境が整ってきたこともあって、今後、急速に市場が拡大することも予想される。

 そしてデジタルだけではなく、生協や総菜宅配サービスなどの食品宅配市場は同4%増の約1兆7000億円あり、少子高齢化が加速するなかで、さらに成長が見込まれている。これでは、リアル店舗への来店誘導を主眼としたビジネス展開では、ROIが悪化してしまうということを意味している。

 そういった観点と少なくともディフェンス的意味合いでも、流通業はネットスーパーや食品宅配へ足掛かりをつかんでおくべきである。しかし、その方向性としてデジタルの物理的距離制約のない世界で戦いを挑むというより、既存のリアル店舗顧客をターゲットとして、あるいはその受け皿としてのサービス強化をまずは重点化すべきである。

 また、ネットで顧客基盤を持つ楽天、Yahooなどのマーケットプレイスに出店し、顧客基盤を利用することでコストをかけるのではなく、最大の資産である顧客データを自社内にとどめるためにも、自社サイトで展開する方法を検討すべきだろう。

デジタル・マーケティング&コマースの再構築アプローチ

 小売業がデジタル・マーケティング、デジタル・コマースを手がけるにあたっては、新規ビジネスを立ち上げるという要素が強く、限られた投資で事業を拡大していく必要がある。イニシャル投資、オペレーション業務などに関するコストは、全てを自社でまかなうことになると大手流通業でも負担が重いのが実情だ。そのため、中小の小売業にとってはコスト負担が過大でリスクがきわめて高いといえる。

 また、デジタル環境においては、ビジネスとITの距離が近く、業務要件とシステム要件の検討はできるだけ密接に行うことが必要となる。しかし、これは従来のリアル店舗とは異なるノウハウであるため、すでに展開されているネット販売の事例でもきちんとできていない、中途半端になってしまっている事例が多い。たとえば、リンクが途中で切れる、検索で支離滅裂な結果が出てくる、商品が欠品だらけなど失敗例には枚挙にいとまがない。ネット販売を展開するからには最低限、消費者ニーズに応える基本機能を備えるべきであり、競合比較やサイト診断などを綿密に行わなければならない。

 
 そこでわれわれが提案するのがADD(Accenture Digital Diagnostics)である。これはサイトを構成する全オブジェクトを自動的に巡回・診断し、その診断結果を特定の競合他社との比較などを行う機能を提供する。

 それらを踏まえて、デジタル・コミュニケーション・コマースの立ち上げ・再構築のアプローチとして、(1)イニシャル投資をミニマイズする (2)数年先には考え直す・撤退も可能なこと (3)スピード感を持った立ち上げと展開 (4)撤退という選択肢も考慮した、リアル店舗とは異なるデジタルのノウハウとリソース調達 (5)あらゆるリスクをヘッジしシェアできるスキームなどが求められる。

 日本の小売業においては自前主義が根強く残っている。しかし、デジタル・マーケティングやデジタル・コマースを展開するうえでは、立ち上げ要件を踏まえ、うまくアウトソースを活用することもスムーズな事業参入と成功のためには考えるべきであろう。実際の事業展開においては、イニシャルコストを抑え、リスクをシェアできるように外部パートナーと協業する必要がある。国内大手企業でも海外企業でも、外部のアウトソースの活用を積極化している。アクセンチュアでは、そうした外部パートナーとしてリスクも担い、成果を上げることで、IT、リソース、ノウハウを提供するとともに蓄積し、資産化している。

 そして、先にまずはディフェンス的意味合いでもネットスーパーを述べたが、本質的にはネットスーパーの収益化のシナリオを持つべきである。鍵は「在庫」「ラストワンマイルの物流」「販促」「需要のフレ幅」をどう御するかであろう。本当に御せるだろうか。出来うると考えている。そうした“ 知恵” “ネットワーク”も提供しうる。

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