群雄割拠がついに終焉? 決算ランキングから読み解く食品スーパーの現在地

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)

「寡占化」の進行に伴う地方企業の試練

 ここまでの指標を通じて見えてくるのは、首都圏で急速に寡占化が進み、そのなかで勝ち抜く少数精鋭の企業群の存在感が増しているということである。とくに、ヤオコー、ベルク、オーケー、マミーマートといった企業は、それぞれ異なる強みを持ちながら、明確に寡占化をリードする立ち位置を築きつつある。

 もちろん、地方にもそれに伍する水準の企業はある。だが、ハローズ、アクシアル リテイリング、アークスといった一握りの存在にとどまっているのが実情だ。首都圏とは異なり、商圏の絶対量が限られる中小スーパーにとっては、人手不足や人件費の高騰、電気代の上昇、価格転嫁の難しさによる粗利益率の低下といった「三重苦」がのしかかり、収益構造は急速に悪化している。

 こうした厳しい状況は、もはや一時的なものではない。経済環境がデフレからインフレに転じたことで、コスト上昇は恒常的な課題となった。この局面を乗り切るには、大きく2つの対応が求められる。1つはプライベートブランド(PB)による粗利益率の引き上げ、もう1つは労働集約的オペレーションからの脱却である。

 まずPBについては、物価上昇に賃上げが追いつかず、実質賃金がマイナスに沈む今、消費者の節約志向が加速している。大企業では賃上げが進む一方で、中小企業の従業員が多くを占める消費者層ではその実感は乏しく、いわゆる「二極化」が進行中だ。その中で、PBの「コストパフォーマンス」が再評価されている。

 実際、イオンの「トップバリュ」の売上高は21年度こそ前年度比でマイナスだったものの、23年度は+12.3%、24年度も+8.3%と堅調に推移している。その他大手小売企業でもPBの強化を進めている。ただし、PB展開には一定のスケールが前提となる。年商で1000億円以上、あるいはそれに匹敵する供給量がなければ、製造インフラの確保や安定供給が難しいのも事実だ。

ヤオコーがM&Aを見据えて打ち出した戦略

 もう1つのカギであるオペレーションの変革も待ったなしの状況だ。人手不足は深刻化しており、単なる人件費の問題ではなく「そもそも人が集まらない」ことによる営業リスクが現実味を帯びてきている。とくに地方では、インストア加工体制(バックヤードでの小分け・パッキングなど)の維持そのものが困難になりつつある。

 この課題を解決するには、センター供給体制の整備と、それに伴う設備投資が不可欠である。図表7にもあるとおり、近年では各社が100億円単位のセンター投資を進めており、「規模の利益」が競争力の差に直結しはじめている。もはや、スーパーマーケット業界における「群雄割拠」の時代は終焉を迎えつつあると見ていいだろう。

図表7
図表7

 その象徴的な動きが、ヤオコーによるホールディングス体制への移行である。同社は25年10月、「ブルーゾーンホールディングス」を設立し、事業会社としてのヤオコーは持株会社の傘下に入ると発表した。表向きはガバナンス強化のように見えるが、その真意は明らかにM&Aを見据えた受け皿の構築にある。これから先、志を同じくする仲間と広域連携を結び、スケールを拡張していく準備段階に入ったと見て差し支えない。

地域の中堅企業に求められるのは自社の磨き上げ

 地域の群雄がいま考えるべきは、同盟先探しで右往左往することではない。統合の時代を見据えるならこそ、単独で築ける最大限の事業基盤を固めることが先決である。有力企業との同盟においては、相手のインフラと交換可能な自社の経営資源──商品力、商圏、人材、サプライチェーンなどが前提となるからだ。

 戦略的価値を持たない相手に、強者が手を差し伸べることはない。いま必要なのは、弱点の補完ではなく、強みの磨き上げによる価値の最大化である。そのためにも、自社のなにが価値となり得るのかを再定義し、残された時間のなかで強化に着手すべきであろう。

 

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。

2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。

2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。

主な著書「小売ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング社)「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、DCSオンライン他、月刊連載6本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。東洋経済オンラインアワード2023(ニューウエイヴ賞)受賞。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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