群雄割拠がついに終焉? 決算ランキングから読み解く食品スーパーの現在地

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)

ヤオコーとベルクの存在際立つ「株式時価総額倍率」

 続いて株式時価総額を売上規模で割った「株式時価総額倍率」を見ていく(図表3)。これは、将来の成長に対する市場評価を大まかに測るものとして用いているが、上位にランクインしたのは、ヤオコー、ハローズ(岡山県)、マミーマート、大黒天物産(岡山県)、そしてベルクだった。

図表3
図表3

 この中でハローズと大黒天物産は、それぞれ36期、27期の連続増収を誇る地方発の成長企業だ。残る3社であるヤオコー、マミーマート、ベルクはいずれも「埼玉御三家」と称される首都圏郊外の雄である。とくにヤオコーとベルクは30期以上にわたって連続増収を達成しており、市場からの評価も高い。首都圏での今後の寡占化を担う存在として、すでに視線が集まっていることは間違いない。

 個々の指標に目を移してみても、首都圏の競争環境の厳しさがうかがえる。1店舗当たりの売上高を見てみると、オーケー、ヤオコー、ライフ、ベルク、サミットと、首都圏の主要企業が並ぶ。1店舗当たり売上高は経験的に「増収力」との相関が高く、特に郊外展開が中心のヤオコーとベルクの地力は極めて高いといえる。

 加えて、既存店売上増減率でも、マミーマート、ヤオコー、ハローズ、ベルク、オーケーといった顔ぶれが上位に来る。ここでも「埼玉御三家」+オーケーという構図が際立っており、安定成長の中核を担う勢力であることが、データからもはっきり見えてくる(図表4)。

図表4-1
図表4-1
図表4-2
図表4-2

 在庫回転率と売場効率(売場面積1㎡当たりの売上高)に注目すると、在庫回転率が高かったのは、オーケー、ヤオコー、マミーマート、ダイイチ(北海道)、アクシアル リテイリング(新潟県)、ハローズといった企業群だった(図表5)。首都圏の上位3社に続き、地方からも有力チェーンがランクインしており、地域に根差した集客力の高さがうかがえる。

図表5-1
図表5-1
図表5-2
図表5-2

 売場効率については、売場面積の開示データが限られているため比較対象数は少ないが、上位にはオーケー、サミット、ヤオコー、ベルク、ライフといった都市圏の有力企業が並んだ。人口密度が高い商圏ゆえの結果ではあるが、それぞれが高い効率で店舗運営をしていることも間違いない。

 最後に、収益性を示す指標を確認しておこう(図表6)。営業収益経常利益率の上位には、オーケー、ハローズ、JMホールディングス、エコス(東京都)、アクシアル リテイリングといった顔ぶれが並ぶ。ここでも、ハローズとアクシアルという地方有力チェーンが高い収益性を確保しており、地域密着型の強さが数字にも表れている。

図表6-1
図表6-1
図表6-2
図表6-2

 販管費率を見てみると、オーケー、大黒天物産、マミーマート、アークス、ハローズが上位となっている。ディスカウント業態のオーケー、大黒天物産に続く3社も、相対的にコスト構造の強さを示しており、厳しい経済環境下における3社のコスト耐性は注目に値する。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。

2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。

2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。

主な著書「小売ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング社)「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、DCSオンライン他、月刊連載6本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。東洋経済オンラインアワード2023(ニューウエイヴ賞)受賞。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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