焦点:円に瞬間急騰リスク、真夏の逢魔時に警戒 5月と異なるポジション

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瞬間急騰リスク
8月9日、金融市場が急変する「フラッシュ・クラッシュ」が、再び円相場で発生する可能性を懸念する声が出ている。写真は2017年6月撮影(2019年 ロイター/Thomas White)

[東京 9日 ロイター] – 金融市場が急変する「フラッシュ・クラッシュ」が、再び円相場で発生する可能性を懸念する声が出ている。日本の個人投資家が大きな円売りポジションを抱えたまま夏休みシーズンを迎えると、薄商いを好機と見た海外投機筋が、個人のストップロスを狙った円買いを仕掛けてくるのではないか、とのシナリオだ。

そうした動きが発生しやすいのは、市場の取引量が急減する米国時間の夕方から、日本時間の朝にかけて。昔から、薄暗くなる時間帯は「逢魔時(おうまがどき)」と呼ばれ、妖怪や魔物に遭遇するような不吉な時とされる。しばらく警戒が必要だ。

夏休み対策のキャリー取引、トランプ砲で早速逆流

今月1日。ほぼ想定通りだった米連邦公開市場委員会(FOMC)の利下げを終え、参加者が世界的な低金利下の夏枯れ対策として、金利収入を狙うキャリートレードを検討し始めた矢先だった。トランプ米大統領が、9月から中国製品に追加関税を課すと突然表明。売られ始めていた円に、一転して買いが集中した。

大統領の発言からわずか4営業日後の7日、ドルは105.50円と1月以来の安値を更新した。円キャリー取引に動き始めた向きが早々に損失確定の円買い戻しを迫られたこともあり、FOMC後につけた2カ月ぶり高値からの下げ幅は4円近くに達した。

市場心理を一段と悪化させた中国人民元の急落は、いったん落ち着きつつある。元は16年と18年には回避した1米ドル=7元台へついに下落したものの、その後の下げ幅が意外に限られていることで、市場では「中国は貿易戦争から通貨安戦争へ、戦火を拡大させる意思はないようだ」(外銀幹部)との見方が次第に広がってきた。

全面的な米中対立には至らない、との期待が高まるとともに、ドルは106円台へ小幅ながら値を回復。人民元が7元前半で下げ渋っていることで、円相場は小康を取り戻しつつあるように見える。

個人のドル買い、横ばいトンネル脱出期待で殺到

その中で、市場関係者が問題視しているのは、ドルが下げる過程の売買。105円台にかけて、日本の個人投資家が得意の逆張り戦略を掲げて断続的に、大きくドルを買い込んだのだ。

下値では国内大手投資家のまとまった買いもうわさされたが、それ以上に目立ったのは個人の買い。業界最大手のGMOクリック証券では買い残が7月下旬から倍増し、前回ドルが105円を割り込んだ昨年3月以来の高水準に到達。トレイダーズ証券では「顧客の8割超がドルを買い向かった」(市場部長の井口喜雄氏)という。

個人の買いが膨らんだのは、今年もドル/円の変動幅が広がらず、売買を傾けにくい状況が続いていたことが一因。今年4月にはドル/円の1年物の予想変動率(インプライド・ボラティリティ)が過去最低を更新し、GMOクリック証券の月間売買代金は、5年ぶりの低水準を記録した。

その流れを受けて、円相場で長らく続いた狭小レンジの突破はまずない、との期待が短期的な利益を狙う個人の射幸心をあおり「久々の円高水準到来」以外に特段手がかりのない買いを集めるかたちとなったようだ。

円急騰回避した5月、個人の買い限定的

日本勢が正月休みだった今年1月3日、薄商いの間隙を縫うかたちで円が瞬間的な大暴騰を見せたことで、その後も市場が不安定な中で日本が休場となる際は、リスク回避の買いが突然発生して円が急騰するのではないか、と警戒する声が幾度も出回った。

フラッシュ・クラッシュへの警戒度が最も高かった5月の10連休は、意外に平穏なまま終えた。事前に金融庁と財務省、日銀が3者会合を開き「平日同様に市場をモニタリングする」(当時の浅川雅嗣財務官)とけん制したこと、証拠金各社が連休中の流動性低下に留意するよう繰り返し呼びかけていたことなどが奏功したという。

ただ、実情は「それまで相場がずっと凪で、個人の円売りポジションがほとんど膨らんでいなかっただけ」(FX業者)。損失確定の円買い戻しを誘発するストップロスが並んでいる時に仕掛ければ、誘発した買いの勢いで値幅はさらに広がるため、仕掛けた側は多くの利益が得られる。5月と今回が最も異なる点はここだ。

「中には日本の個人のポジションを毎日チェックして、『刈れる』と判断すると、ストップロス狙いの仕掛け売買を入れてくる海外投機筋もいる」(先出の外銀幹部)。

そうした向きが動きやすいのは、市場の取引量が24時間で最も少なくなる米市場の取引終了後、現地時間の夕方以降とされる。英語で昼と夜の間を主に指す「トワイライトゾーン」にも、未知の空間といった意味がある。

(基太村真司 編集:石田仁志)

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