輸入牛の価格高騰、コロナ禍で起きている「ミートショック」の深層
コロナ禍の「ミートショック」、長引く可能性も
このように、輸入牛の価格高騰には供給・需要の両面からの理由がある。実は過去にも、2014年9~12月にかけてアメリカ産のショートプレート(バラ肉)の卸売価格が1000円台を推移したこともあった。これは、アメリカが輸入牛の生産量を調整したことと、香港の需要が大きくなったことが背景にあるが、2015年9月には同591円に収まるなど、非常に短期間のものだった。
しかし、コロナ禍を端に発したミートショックは長引く可能性がある。それは、問題が蜘蛛の糸のように複雑に絡み合う、日本の食糧安全保障を取り巻く構造的問題といった色彩が強いからだ。
まず挙げられるのは、15年のパリ協定締結以降、世界中で脱炭素の傾向が強まり、原油生産が減退していく方向が決定づけられたことにある。
長期的に見て原油価格が上昇するとあらゆる近代農業、畜産業へのコスト面での負荷は計り知れない。さらに、環境問題の観点からも、森林伐採やメタンガスの排出を伴う畜産業への風当たりが強くなっていくことも予想される。
日本の「買い負け」には、為替の問題、つまり円安相場にも遠因がある。2021年の日本の貿易収支は輸出が83兆931億円、輸入が84兆5652億円で約1兆4722億円の貿易赤字。品目別では、鉱物性燃料である原油(49.1%増)、液化天然ガス(33.1%増)※などが大きく伸びている。ドル建てがほとんどの鉱物性燃料の輸入には円を売らなければいけない、すると必然的に円安になる。円安ゆえに、輸入価格が上昇する・・・と悪循環に陥っている。※財務省貿易統計より
輸入牛の価格が上昇すれば、国産の牛肉にとっては追い風になるはずだが、それも疑問ではある。なぜなら、長引くデフレで国内の畜産業の生産基盤は弱体化し、高齢化も進んでいるからだ。
※本稿は柴田明夫氏による「ミートショック」現象解説の前編です。後編ではコロナ禍で浮き彫りになった日本の食糧安全保障の問題について解説します