サザビーリーグがDX支援を本格外販へ 新会社「アウルスケープ」の戦略とは

2025/08/07 05:00
植芝 千景 (ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者)

差別化の源泉は“現場起点”と“カスタマイズ力”

 アウルスケープの支援の特長は、単なるデジタル導入ではなく、ブランドの文脈に即した設計ができる点にある。背景には、リアル店舗中心の事業展開で培ってきた“現場起点”の視点と、グループ内で多様なブランドを支援してきた経験がある。

 「われわれの出発点は小売。現場が何に困っているか、どこに手をかけると売上が変わるかを肌感覚で理解しているメンバーが多い」と相川社長。従業員の多くは、アパレルや飲食、雑貨といったリアル業態の出身者で構成されており、ブランドの世界観や顧客体験に対する高い感度を持っている。

 また、ECカートシステムやSNS運用、CRM基盤などにおいても、全ブランドで統一するのではなく、ブランドごとのフェーズや規模、展開市場に応じて個別最適を図ってきた経験が、他社にはない“フルカスタマイズ”の対応力として評価されている。

 現在、グループ外企業に対する支援は本格稼働中のものが1社、そのほか10数社から引き合いを受けている状況だ。とくに多い相談内容はSNSとCRM領域で、「SNSを運用しているがフォロワーが伸びない」「顧客データが分断していて活用できていない」といった課題を抱えている企業が多いという。

 支援初期はSNS分析やECの数値可視化から着手し、現状把握、課題抽出、支援方針策定へとステップを踏んでいく。相川社長は「まず現状を可視化することで、クライアント自身が気づいていなかった本質的な課題が明らかになる」と話す。

SaaSプロダクトの開発も視野に

 アウルスケープの現在の組織規模は、正社員が17人、業務委託を含めて約20人。25年5月には自社主催のフォーラムを開催し、クライアント候補企業へのプレゼンテーションを行うなど、営業活動も本格化している。

 現在の主力事業はコンサルティングだが、中長期的にはSaaSプロダクトの開発も視野に入れている。たとえば、BX指標の可視化ツールや、ブランドごとの接客体験を統合的に設計・管理できる管理ダッシュボードなどが構想されており、コンサルティングで得た知見をプロダクト化していく方針だ。また、海外で実績のあるSaaSプロダクトの日本市場展開も視野に入れており、「海外SaaSのローカライズ」という輸入型ビジネスも可能性のひとつとして挙げた。

 アウルスケープが掲げる企業理念は「複雑化した現代ブランド戦略をシンプルにする」こと。デジタルが加速し、チャネルや顧客接点が多様化する中、ブランドごとに最適な体験を設計・運用する支援を行う。

 今後はアパレル・雑貨・飲食といった既存の得意領域にとどまらず、ホテル・不動産・教育など“体験価値が問われる”産業全般への展開を視野に入れる。アウルスケープは、BX支援企業として、サザビーリーグにおける新たな事業領域の中核を担う役割を果たしていく。

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記事執筆者

植芝 千景 / ダイヤモンド・チェーンストア 編集記者

同志社大学大学院文学研究科(国文学専攻)修士課程修了後、関西のグルメ雑誌編集部を経て、ダイヤモンド・リテイルメディアに入社。関西小売市場やDX領域を中心に取材・執筆を担当している。現在は大阪府在住。

まとまった休日には舞台・映画鑑賞を楽しむほか、那智勝浦へ弾丸旅行に出かけることも。世界各国の家庭料理を再現するのも趣味のひとつだが、料理に入れたスパイスで歯が欠けたので今は控えめに取り組んでいる。

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