第117回 “人海戦術”の終焉!SCが人口減少時代を生き抜くために必要な3つの打ち手とは

2025/06/27 05:00
西山 貴仁 (株式会社SC&パートナーズ代表取締役)

かつて日本企業は、大量採用と人海戦術を前提に人材戦略を築いてきた。しかし、年間出生数が200万人を超えていた時代は過ぎ去り、いまやその半分以下となったことで、新卒採用の母集団も急速に縮小している。人材の奪い合いが常態化するだけでなく、絶対数そのものの減少が組織運営の根幹を揺るがしつつある。ショッピングセンター(SC)も例外ではなく、前例踏襲型の運営モデルには限界が見え始めている。本稿では、こうした環境変化に直面するSCが、いかにして新たな経営戦略を構築すべきかを考察する。

George Standen/iStock

少数精鋭型への転換が迫られるSC

 現在、企業の管理職層を担う50代が生まれた時代には、年間の出生数は約200万人にものぼっていた。しかし、2002年生まれの世代(今年の新入社員)は115万人とほぼ半減し、さらに24年には70万人にまで減少している(図表1)。このトレンドが続けば、新卒採用市場は今後も急速に縮小していくことが避けられない。

図表1 出生数の推移

 結果として、新卒採用は「売り手市場」となり、企業はますます採用難に直面する。ただし、これは人材の奪い合いというよりも、「市場全体の絶対数が減っている」ことが本質だ。かつてのような人数に依存した運営や前例踏襲型のビジネスモデルは、今後ますます成立しにくくなる。 

 組織は今後、少数精鋭への転換を迫られる一方で、ショッピングセンター(SC)を支える運営体制そのものの見直しが、避けては通れない課題として突きつけられている。

SCが取るべき3つの対応策とは

こうした状況下、SC経営が持続的に機能するためには、おもに次の3つの対応策が求められる。

①運営管理業務の簡素化・デジタル化

 従来、日本のショッピングセンター(SC)や駅ビルは、豊富な人員を前提に、手厚く運営管理を行うモデルが主流だった。たとえば、「ジャパンSCスタンダード」は、「玉川高島屋S・C」(東京都世田谷区)に代表されるような、百貨店型のSCがモデルであり、共通の営業時間や売場運営、イベント、現金管理まで、スタッフが一体となってハンズオンで運営してきた。

 また、「MDファースト駅ビルモデル」は、「アトレ」や「ルミネ」といった首都圏の大手駅ビルで確立されたスタイルで、ファッションや雑貨などの品揃えを重視し、流動性の高い駅利用客を取り込むために、売場編集や販促、運営管理にも多くの人手を割いてきた。

 さらに、「モール型ワンストップモデル」は、「イオンモール」や「ららぽーと」など郊外型の大型商業施設で発展したもので、食品からファッション、サービスまで“なんでも揃う”ことを強みに、テナント管理や警備・清掃まで一括してスタッフがサポートし、全体の統一感を保つ運営が重視されてきた。

 これらはいずれも経済成長や人口増加、人員の潤沢さを前提とした運営モデルであり、人海戦術がそのまま競争力となっていた。しかし、現代はキャッシュレス化やITの進展により、現金管理や売場運営、販促などの業務も自動化・省力化が進みつつある。今後は、人手による従来型の運営を見直し、継続が困難な業務は削減、どうしても必要な業務は徹底的にデジタル化していく必要があるだろう。

 たとえば、売上金の現金管理といった日本独自の業務も再考し、SCとしては「接客力の強化」よりも、BOPIS(ネット注文商品の店頭受け取り)など、極力接客を要さない販売形態の拡充に舵を切ることが、現実的な方向性となるはずだ。

②テナントスペースの適正化と施設規模の見直し

 ここ数年、SCにおけるテナントスペースの収益性が下がってきている。そのため、新しく開発される物件でも、商業スペースの割合を以前より減らす傾向が強まっている。これは、広い施設を維持するための人手やコストを確保するのが年々難しくなっている現状を反映している。人手不足の時代には、運営に多くのスタッフやコストをかけなくて済む規模まで、SC自体をダウンサイジングすることが現実的な選択肢となる。

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記事執筆者

西山 貴仁 / 株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒

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