國貞(東京都/鈴木進吾社長)は、道具・工具の専門店「道具屋」を展開する。プロショップの先駆け的存在で、ホームセンター系が拡大するなか、数少ない独立系として気を吐いている。道具屋の成長戦略について鈴木社長に話を聞いた。
都内を中心に16店舗を展開
國貞は1971年に「國貞金物店」(東京都足立区)として創業し、主に建築向けの道具・工具や資材の販売を行っていた。道具屋の多店舗展開に乗り出したのは、1号店となる「蒲田道具屋」(東京都大田区)を2000年に開業してからだ。それ以降、東京都内を中心に関東で出店を重ね、24年5月末時点の店舗数は「國貞本店」(旧國貞金物店)を含め16店舗を数える(東京10、埼玉3、神奈川2、千葉1)。
道具屋の店舗は売場面積80坪を主力としている。独立系プロショップでは300坪クラスの店舗が珍しくないなかで、かなりの小ぶりだ。國貞本店こそ300坪弱の広さを持つが、ほかの店舗の在庫も兼ねているという事情によるもので、中心となるのは小型店舗だ。同社の鈴木社長はその理由を次のように話す。
「プロショップ業界のコンビニエンスストアのようになりたい。道具屋店舗に掲げているゴリラのマークをお客さまが見て買い忘れたものを思い出し、サッと購入していってもらえるような店舗だ。だから売場面積は広くなくていい」。
それだけではない。小型店舗は都内で出店しやすいという利点もある。大型店舗は都内では出店用地の確保が難しいが、道具屋の店舗規模はコンビニエンスストアの2倍程度だから用地を見つけやすい。今後の出店も引き続き80坪を中心に進めていく考えだ。
PB商品が300点以上
対象顧客は幅広い分野の職人だ。職人の分野は、建築、設備、電気、内装などさまざまだが、特定分野の職人を対象にするのではなく、すべての分野で必要とされる道具・工具を揃えることをマーチャンダイジング(MD)の基本に置いている。これは、道具屋1号店で想定していた建築関係だけでなく、電気や設備などの職人が多く来店したため、職人の求めに応じて品揃えを拡大してきたという経緯があるからだ。
取扱商品で中心に据えるのは道具・工具で、資材・部材はクギ、ビス、接着剤、テープ、養生剤くらいだ。こうした品揃えにしたのは道具屋1号店の出店がきっかけだ。道具屋1号店では、それまでの運営方法を大きく変えた。資金管理を改善するため、それまでの売掛払いをやめ、現金払いのみの販売とした。売掛払いの多いのが資材で、職人が現金で支払うことの多いのは道具・工具であるため、資材は縮小し道具・工具をメーンに揃えていったのである。
登録商品は30万点、店舗在庫は2万点以上だ。プライベートブランド(PB)商品も増やしてきている。SDSビットをインパクトドライバーに装着できるアタッチメントなどの人気商品を含め、PBは300点以上に上る。道具・工具では品揃えの幅も深さを追求し、売場面積80坪ながら専門性の高い商品も揃える。
たとえば、ボルトなどと組み合わせて高さを調整する豆ジャッキ、直径の異なる配管を接続するために使うレデューサー、ボルト・ナットを締めたり取り外したりするときに使う打撃スパナや打撃メガネ、爆発や引火、燃焼の危険がある場所で使う防爆工具などだ。専門店ならではの商品を揃えていることも顧客の信頼を得ている要因の1つになっている。
ただ一方で、近年は職人数が減少してきており、多能工を志向する職人が増えている。そうした多能工の需要に応えられるような商品の扱いも増えてきているという。
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顧客の子供の名前も覚える
道具屋が強みとしているのはこうした商品力だけではない。接客も顧客から信頼を得ている要因の1つだ。従業員が顧客と親身に向き合い、信頼関係を築くことを徹底しており、顧客だけでなく、その子供の名前も覚えるほどだ。
接客に力を入れるのは「日本中の職人さんが道具屋のことを知っていて、お客さまとして一度は道具屋に来たことがある、そんな店にしたい」という思いが鈴木社長にあるからだ。そのために重要視するのが接客なのである。
80坪の店舗で従業員は3〜4人で、社員とパートタイマーはほぼ半々だが、社員であろうとパートタイマーであろうと、接客の重要性は共有されている。道具屋ならではと言えるのは、接客のレベルを維持するために各店舗の若手社員1人が集まりチームを組んで全店舗への接客指導を行っていることだ。これは経営の指示によるものではなく、チームによる自発的な活動だという。
人材育成にも注力する。とりわけ接客に力を入れるだけに、人材育成は競争上も重要な施策となる。従業員が接客に十分な時間を割けるように、それ以外の業務はシステムを活用し効率化・合理化を図ることで人材育成につなげる。また、全体として職人は減少しているが、一方で外国人の職人が増える傾向にあるため、外国人の従業員を配置するといった対応も行っている。
M&A・提携も視野に拡大
ここ数年、力を入れているのがシステム活用だ。
「以前のように商品を並べれば売れる時代ではなくなってきた。お客さまの所得の伸びも鈍化し、価格も上昇傾向にあるなか、購入できる量も決まっている」(鈴木社長)。
そんななかでは、顧客の求めるものを的確に揃えることが必要になる。そのために注力しているのがシステム活用なのである。
現在、運用中のPOSシステムを軸に、そこから得られるデータを使って販売分析や出店分析、発注管理などを行っており、売場づくりや店舗運営をサポートしている。自社アプリとも連携しており、顧客管理にも生かしている。
「多店舗展開をしていると在庫量が増える問題がある。この問題を解決するのにシステムは有効だ。同業他社の先を行く、当社のアドバンテージになっている」(同)。
デジタル施策にも力を入れている。ネット販売については、20年以上前に開始したが、当時は売ることに躍起になるあまり、売上は伸び悩んだ。そんな反省もあり、今は物販というより顧客に情報を提供するツールという位置づけにしている。このほか、インスタグラムを活用し、各店舗の従業員が面白い商品、興味のある商品などをアップロードしており、職人の間に広く認知されるようになった商品もあるという。これも、顧客に商品を提案する情報発信の場になっている。
「同業他社と価格競争するよりも、他社が持っていない、あるいは持っていても情報発信できずによさが伝わっていない商品を道具屋なりの表現で載せているのがわれわれのホームページだ」と鈴木社長は話す。
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「われわれは職人を守ってきたという自負がある。今以上によい接客ができて、安心して来店してもらえる店をつくっていかなければならない。日本建築やその技術は日本を代表する文化の1つ。それを継承する職人を支援していくのがわれわれの使命だ」(同)。
職人に寄り添う姿勢を貫く國貞だが、今後の成長に向けてM&A(合併・買収)や提携についても前向きに検討していきたいという。同業他社と組んでシステムを共有することでシステム運用コストを低減し、データ活用や業務効率化に生かせる効果が期待できるからだ。同業と手を組むことも道具屋として重要な選択肢となっていきそうだ。
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