教えて本多利範さん!「商品の値上げは、価値をいかに付加するかが重要なポイント」
景気の不透明感が続く中、値上げが止まらない。一方、コロナ禍を通じ、人々の価値観が大きく変化、企業にとっては難しい時代である。これに対し、本多コンサルティング(東京都)の本多利範氏は「業種、業態を問わず、生活者との信頼関係を守りつつ、価値を提供することが重要だ」と説く。
本稿は新連載「教えて本多利範さん!」の第1回です。
現在は「一人十色」の時代
バブル経済の崩壊以降、賃金が上がっていないと言われる。ハンバーガーの価格を見てもわかるように、物価はアメリカと比較し3分の1の水準だ。そうした中、昨年から各種商品の値上げが相次ぐ。われわれ日本人が今目にしているのは、この30年間、誰も経験してこなかった状況だ。
大局的には、インフレが進み、賃金が上がることで経済がうまく回るのなら悪いことではない。世界経済に目を向けると不安定な部分も多く、必ずしも楽観視できない。私自身は、本当に好循環が起こるかどうかはやや疑問だと考えている。
とはいえさまざまな商品の値段が上がるのを見て、人々の間には「物流費、人件費などのコストが高騰しているのでやむをえない」と、受け入れる意識が広がってきているのも事実だ。生活者が理解したうえでの値上げであれば、日本経済にとっては好ましいとの見方もできる。
あらためて消費を取り巻く環境に目を向けると、ここ数年で人々の価値観は大きく変化した。これまで常識とされたことが通用しなくなったことも多い。働き方も、以前なら毎日、会社に出勤し、残業することが当たり前だった。しかし現在は自宅でも働けるという風潮が浸透している。
きっかけはコロナ禍である。ライフスタイルが変わったほか、さらに少子高齢化といった要因も複雑に重なり合っている。
ニーズも多様化している。歴史を遡れば、メーカーが主導の売り手社会ではいわば「十人一色」だった。しかし買い手が強くなると生活者の好みに応じて「十人十色」になり、現在は「一人十色」の時代が来ていると実感する。個人の中でも、多様なニーズがあるわけだ。
モノの買い方も以前とは違ってきている。買物をする場所も店舗のほか、ネット通販もある。さらに好みが多様化したことで、必ずしも価格だけが買物の基準ではなくなっている。価値があると感じたものに対しては、普段の生活を切り詰め、高いモノを買うケースは決して珍しくない。
つまり消費には価値観、楽しさ、時間といった要素も大きな影響を与えているわけだ。