「アプリ」や「ECサイト」、そして店頭の「デジタルサイネージ」など、小売業が保有するデータを活用した広告事業である「リテールメディア」が、日本でも期待が高まっている。広告主が広告を出稿したいと考える「リテールメディア」はどういうものかについて、博報堂ショッパーマーケティング事業局長の徳久真也氏が解説する。
広告を出稿したいリテールメディアとは
今年に入り日本においてもリテールメディア市場は、大きな盛り上がりを見せています。多くの小売業が参入を表明し、まさに市場は“百花繚乱”の様相を呈していると言ってよいでしょう。
広告主であるメーカー企業の期待値も高く、リテールメディアは「今後利用したいメディア」としてインターネット広告、テレビCM、自社ホームページに次ぐ勢いです。
では、広告主視点で広告を出稿したいリテールメディアとはずばり何でしょうか?
それは、「横断性」が担保されていることです。横断性とは、単一の小売業を対象にしたメディアに出稿するだけではなく、複数の小売業のメディアに一括配信ができる機能のことを指します。
例えば、複数のドラッグストアチェーンが開設しているリテールメディアに一括配信ができる“チャネル内横断型”のメニューなどが代表的です。
なぜ、「横断型リテールメディア」が広告主に支持されるのでしょうか?それは、リテールメディアをテレビやデジタル広告などと同列に比較検討を行う“メディア”として捉えた時に、「リーチ」が増えるからです。
リテールメディアは、強みとして購買履歴データにもとづく精緻なターゲティングや、購買効果を可視化できるなど他のメディアにはない独自の価値を持っています。一方で、日本は米国に比べて小売企業数が多く、個社単位ではリーチ数(≒広告配信在庫)を十分に担保できないという課題があります。また、リテールメディアに出稿するためには個別に小売企業と商談・折衝をする必要性があり手間もかかります。そのため、特定小売業のみを対象とした広告出稿に抵抗感を感じたり、規模の観点から見た投資対効果を疑問視する広告主が一定数存在するのも実態です。
そこで、複数の小売業のリテールメディアを束ねてメニュー化がなされ、リーチ数が増え、商談の手間も軽減される「横断型リテールメディア」に注目が集まっているというわけです。
広告を出稿しにくいリテールメディアとは?
それでは、逆に広告主視点で広告を出稿しにくいリテールメディアとは何でしょうか?
それは、「購買効果指標」しか提供されないリテールメディアです。これは意外に思われる方もいらっしゃるかもしれません。リテールメディアの特色として、広告接触者の購買リフト効果を定量的に可視化できるという点が挙げられます。購買効果が可視化されるのはよいのでは?と思いますよね。
もちろん、購買効果指標はリテールメディア出稿後の結果レポートで広告主が求める大切な指標の一つです。しかし、それだけでは実は広告主のニーズを十分に満たしているとはいえません。なぜでしょうか?
リテールメディアの広告出稿原資を負担するのは、メーカーの「営業部」に加えて、「宣伝部」の場合もあるからです。リテールメディアの出稿を担っているのは、現時点では営業部が主体です。営業部は、販売促進・売上アップにつながる施策を重視するので購買効果指標だけでも問題はありません。一方で、宣伝部は広告目線でメディアを評価しており、ブランドの認知・理解・購入意向などへの寄与度、獲得したいターゲットの解像度の向上など、広告目線での価値を求めています。そのため、購買効果指標しか提供されないと、宣伝部視点では成果を十分に評価することができず、リテールメディアに投資する必然性が低くなってしまうため、予算取り・社内説得がしにくくなるという事情があります。
そのため、購買効果指標は重要な指標として基本的に押さえつつも、ブランド関連指標も提供がなされるとより「出稿しやすい」裾野の広いメディアとなります。また、効果指標やレポートについても、小売業ごとに別々の基準が採用されていたり、フォーマットがバラバラなのが現状です。こうした指標やフォーマットを標準化していくことも、広告主がリテールメディアにより出稿しやすくするための大切な視点だと考えています。