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イオンは欧州最大のスポーツECプラットフォームをどう戦略に組み込むのか?イオンシグナスポーツ、泊剛史社長に聞く

イオン(千葉県/吉田昭夫社長)が欧州最大のスポーツECプラットフォームを展開する独シグナ・スポーツ・ユナイテッドと共同出資で設立したイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(東京都)。2020年6月に設立して丸1年が経過した。スポンサーロゴを付けると割引でオリジナルユニフォームが作れるECサービスが好調だ。スポーツ市場において新たなECプラットフォーム構築をめざす同社の取り組みと今後の展望について、2021年5月に代表取締役社長に就任した泊剛史氏に話を伺った。

 

欧州最大のスポーツECJVを組んだ背景

 イオンと、シグナ・スポーツ・ユナイテッド(以下、シグナスポーツ社)が50%ずつ出資するジョイントベンチャーとして20206月に誕生したイオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッド(イオンシグナ)。現在「チームスポーツ」「スポーツバイク」「テニス」の3つのスポーツEC事業を展開している。

「健康志向の高まりとともに、これからは『スポーツ』がマーケットにおけるキーワードのひとつになっていきます。当社がスポーツにおけるナンバーワンのECプラットフォームを構築することで、そのマーケットの期待に応えられる商品を提供していきたいですね」

 そう意気込みを語るのは、代表取締役社長の泊剛史氏。20215月、ビオセボン社長と兼任していた岡田尚也氏から社長のバトンを引き継いだばかりだ。

 泊氏によると、イオングループとしてこのイオンシグナを立ち上げた背景にはもうひとつのねらいがある。

「イオンはリアル店舗に大きな強みを持つ一方で、これまでECにはあまり力を入れてきませんでした。欧州ではアマゾン(Amazon.com)をも上回る、最大のECプラットフォームを持っているシグナスポーツ社と組むことで、ECのノウハウや経験を蓄積したいねらいもあります」

「日本初上陸」のユニフォームECが好調

スポンサーロゴを付けると最大半額になるユニフォーム事業を手掛けるイオンシグナ

 3つあるスポーツEC事業の中で、とりわけ好調ぶりが目立つのがチームスポーツだ。その中核サービスは、オリジナルのチームユニフォームをカスタマイズ制作できる「Outfitter(アウトフィッター)」。商品・企業ロゴをユニフォームに付けることで、最大50%のディスカウントでオリジナルのユニフォームを制作できる。小学校のサッカーチームを中心に人気に火が付き、注文チーム数は800チームに上る。

「シグナスポーツのあるドイツをはじめ、サッカーが盛んなヨーロッパでは、地域のアマチュアのサッカークラブでもスポンサーがついているのが当たり前。ユニフォームにロゴを入れる代わりに企業が無償でユニフォームを提供する文化が根づいています。その文化を日本に持ち込んだのがアウトフィッターです」

 スポンサー企業数は20213月までは3社だったが、6月には11社まで増加した。展開するユニフォームは「カップヌードル」「ポカリスエット」「バーモントカレー」などの商品ロゴで彩られており、さながらプロサッカーチームのようだ。

「日本初上陸のサービスだけに、当初は企業さまのご理解を頂くのにかなり苦戦しました。小学生チームに割安でユニフォームを提供できるという、このサービスの価値がだんだん伝わり、CSR(企業の社会的責任)の目的でスポンサードしていただける企業さまが増えてきました」

 今後は、スポンサー企業との関係性を深めていきながら、対象スポーツをより広げていくことを見据えている。

「サッカーやバレーボール、バスケットボールなどのクラブチームは全国に1万チームあるといわれています。ユニフォーム事業の裾野はそれだけ広く、実際に相撲部やボーイスカウトなどのお客さまもいます。今後はユニフォームだけでなくアウターなど商品カテゴリーを増やしたり、割引のオプションを増やしながらニーズに対応していきたいですね」

欧州最大のECサイトのリソースを活かした「商品力」で勝負

テニスに関するニュース記事も公開することで、テニスに関する情報が集まるプラットフォームをつくり、物販につなげていく戦略のテニスポイント事業

 一方のスポーツバイク事業は、「Probikeshop(プロバイクショップ)」、そしてテニス事業は「Tennis-Point(テニスポイント)」というECサイトをそれぞれ運営している。いずれもスポーツシグナのECブランドを日本国内で展開しているものだ。

 共通する強みとしては、独シグナスポーツ社のリソースを使って仕入れた国内未販売の商品を独占的に販売できる「商品力」が挙げられる。

 スポーツバイク事業では、シグナスポーツ社のプライベートブランド(PB)「Serious(シリアス)」のバイクを、テニス事業ではラケットメーカー大手・ウィルソン社の「プラチナムシリーズ」を独占販売している。こういった日本では手に入らない限定モデルを購入できることが、他のリアル店舗やECにはないイオンシグナの提供価値を生んでいる。

 「ドイツにはスポーツバイク、テニスともに日本に比べて市場規模が大きく、日本で販売されていない商品がまだまだ眠っているんです。もっと紹介していきたいですね」

その商品力が消費者にも徐々に認知され、20213月から6月にかけての3か月間で、スポーツバイク事業は145%、テニス事業にいたっては408%と売上が急伸した。今後の成長ポテンシャルを期待させる日本のスポーツ市場で、「価格でなく商品力で勝負するサイトにしていきたい」と泊氏は力を込める。

「競合のECサイトの中には、特にアパレルなどはかなり価格を下げているものも見受けられます。私たちとしては価格競争で勝負するのではなく、シグナスポーツと組むメリットを活かして限定モデルを増やしたり、サービスを付加することで消費者に新しい価値を提供するECサイトにしていきたいですね」

ECからのスタート」がリアル店舗への対抗軸になる

 日本のスポーツ市場ではリアル店舗が圧倒的に強く、「とりわけスポーツバイク市場ではEC1割にも満たないのではないでしょうか」(泊氏)というのが実情だ。

「スポーツバイクの場合はメンテナンスなど、サービス面に対する消費者のニーズが高いので、そこを担保しないとECでは難しいと思っています」

 そのようなリアル優勢のスポーツ市場において、ECサイトの成否を決めるポイントとして、泊氏は「メディア力」を挙げる。

「スポーツバイクでは、実際に乗っているシーンやメンテナンス方法を消費者にイメージしてもらうためのコンテンツを、ECサイト上で配信しています。さらにそのコンテンツをInstagramにも投稿することで、InstagramからECへの送客がかなりできています」

 欧州最大のスポーツECであるシグナスポーツのUI/UXを使えることも、イオンシグナにとっては大きなアドバンテージとなる。そのリソースを活用して、独自のコンテンツをより充実させ、ECプラットフォームの魅力を高めていくことが、リアル店舗や他のECサイトへの対抗軸だ。

 前職のウォルマート・ジャパンではEC事業戦略にも携わっていた泊氏。日本のスポーツ市場では、ECから始めたほうが有利に働く可能性を示唆する。

「前職でも感じていたことですが、実は、リアル店舗が強いところはECが弱いという傾向があるんです。それはスポーツ市場でも同じで、リアル店舗が強いぶん、当社は後発ながら、ECからスタートしたアドバンテージを活かしていきたいと考えています」

 設立後1年が経過し、ビジネスの立ち上げフェーズから成長フェーズに移行したイオンシグナ。新たに指揮を執る泊氏のもと、シグナスポーツのリソースを活用した「商品力」と「メディア力」で、リアル店舗が主流のスポーツ市場を切り拓いていくかまえだ。

イオン・シグナ・スポーツ・ユナイテッドの泊剛史社長。元甲子園球児でもある