データの分析・活用だけでなく顧客との「ハイタッチ」を重視する=全日本食品 平野 実 社長
全日本食品は、情報活用や店舗運営などを支援するリテールサポート機能を充実させるとともに、AJDやJA全農などとの業務提携を推し進めながら、店舗の競争力の向上を図る。競争環境が厳しさを増すなか、どのような成長の道筋を描くのか。2013年に全日本食品の社長に就任した平野実氏に戦略を聞いた。
地域のライフラインとして社会的使命を果たす
──現在の消費環境をどのように見ていますか。
平野 昨年の消費税増税の影響が依然として続いています。それはお客さまの購買データにもはっきりと表れています。とくに今年3月の売上高は、昨年の駆け込み需要の反動もありますが、対前年同期比95?96%と苦戦しました。全日食チェーンの加盟店の多くは、店舗規模は小さいけれども、地域のライフラインとしての社会的使命を持っています。店舗を営業し続けることでその使命を果たさなければなりません。小さな店舗規模でも生き残っていくためのさまざまな施策を今まさに打っているところです。
まずは、売価です。お客さまにとっては、実勢価格との差が5%未満であれば、許容していただける売価と捉えています。たとえば、実勢価格が100円の場合、売価が105円では高いけれども、104円ならば「高くない」と感じるということです。そこで、われわれは、以前からこの考え方をもとに、店舗の利益を確保しながら、最も値頃感のある売価を「厳選売価」として設定してきました。
──昨年、AJDやJA全農と業務提携をしました。ねらいは何ですか。
平野 「厳選売価」については、そもそもの仕入れ価格が上がってしまえば、値頃感の維持は難しくなります。そこで、仕入れのボリュームを大きくすることで、店頭売価を引き下げることが重要です。AJDやJA全農と業務提携した目的の1つは、このボリュームの拡大です。コンビニエンスストア(CVS)やドラッグストア(DgS)などが食品販売に力を入れ、業態間の垣根が低くなり、ボーダーレス化が進んでいます。AJDやJA全農との提携は、協同組合を母体とするもの同士で一緒に協力し合おうということからスタートしました。全日食の運営ノウハウを導入したAコープ店舗は今後、確実に増えていくはずです。
ボリュームを大きくするという点では店舗数を拡大することも重要です。そのため、加盟店が単独店経営から複数店経営ができるように支援しています。出店コストを負担するのは、資金繰りに苦心している加盟店にとってハードルが高い。近年は本部主導型の店舗開発を行い、軌道に乗ったところで譲渡するケースもあります。加盟店が必要な資金を用意するのも大変ですので、分割返済などのスキームも提供しています。
店舗展開における「1+5」モデルは、300坪程度の「本店」を軸に100坪程度の「支店」5店を運営することで、大型SMと等しい規模を実現しようというのがねらいです。店舗戦略では、狭小商圏型の小型店舗「マイクロスーパー」もあります。「1+5」モデルにおける支店もマイクロスーパーも、大手食品スーパー(SM)やCVSが進出できない立地に店舗を出すということですから、買物弱者をなくすという社会的使命も果たすことができます。とくに、事業規模の小さいマイクロスーパーは地方創生に貢献するという意味合いの強い店舗です。これらの店舗は、全日食チェーンだからこそ展開できるとも言えます。