オープンから5年、1日の最高売上高更新の誠品生活日本橋、今後の成長戦略は
オンラインでイベントを継続
誠品生活日本橋では、新型コロナウイルスの感染対策期間中も参加できる仕組みを整えてきた。
20からは、オンライン会議プラットフォーム「Zoom」でイベントを開催。『Claft loop –台湾工芸の今』など、アートからホビーまで、さまざまなテーマで配信を行っていた。その中でも、21年8月に「文化多様性と台湾」と題し、台湾のオードリー・タンIT大臣(当時)がゲスト出演した回は、誠品生活日本橋内のイベントスペース「FORUM」とオンラインで同時開催。ともに来客数が多く、反響も大きかったという。
23年にはコロナ禍が一段落し、人流が回復。同年はイベントの開催が165回、会場とオンライン合わせ、のべ6700人以上が参加した。全盛期にはおよばないものの、徐々にペースを取り戻している。
さらに、オープンから5周年を迎えた24年9月28日には、24時間特別営業を行った。この24時間営業は「誠品敦南店」から続き、現在は「誠品生活松菸店」が受け継ぐ「誠品書店」の代名詞ともいえる取り組み。有隣堂は、台湾文化の醸成を支えてきたこの取り組みを誠品生活日本橋でも2度実現させている(1回目は23年に実施)。
5周年の24時間営業では、有隣堂の人気コンテンツでもあるYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」の店内ライブ配信を実施。同配信の同時接続数は最大8000を超えている。この日、同店にはのべ4000人以上が来店し、オープン日を超える過去最高の売上を記録した。
選書で独自性に磨きをかける

開業から5年が経過した現在も、誠品生活日本橋の売場は変化を続けている。
書籍では、店舗の書籍担当者が台湾誠品との協議を重ね、コミックスを日本の重要な文化として再定義。オープン当初、コミックス売場はなかったものの、コンセプトに掲げる「くらしと読書のカルチャー・ワンダーランド」の実現に向けて、取り扱いを始めている。
また、誠品生活日本橋では、入口付近の売場で担当者がセレクトした書籍を展開。一般的な書店の場合、新刊書籍を陳列することが多いが、同店では選書を通じて、独自性を訴求する。
鈴木氏によれば「担当者が厳選した書籍のラインアップの支持は高く、客単価を押し上げる効果がみられている。有隣堂の通常の店舗と比較して買上点数が多く、客単価は1000円ほど高い月もある」という。
さらに、近年のインバウンド需要の増加を鑑み、中華圏の観光客向けに中国語で書かれた中文書の書籍の売場を拡大。中国では手に入らない書籍も入手できるとあって、人気だ。

書籍以外でとくに高い支持を得ているのは食品だ。オープン時の食品売場は、日本と台湾の商品数が同程度だったが、現在は約9割が台湾産の食品だという。
通常、こうした台湾産の食品は中華街などにある食料品店で販売しているケースが多い。しかし、そうした食料品店はいずれも小規模で、複数箇所に点在している。誠品生活日本橋では、これを1つにまとめることで、在日台湾人をはじめ、台湾産食品を日常的に購入するお客のニーズに対応。着実に支持を得ているという。
また、冷凍食品コーナーでは、新たに冷凍ケース2台を導入。試食で売り上げが急増した台湾台北市の「同客餃子館」の冷凍餃子シリーズ(1袋税込1990円)など、売れ行きは好調だ。冷凍食品は導入初月で目標額を達成し、補充した冷凍庫の設備投資額は想定の6分の1の期間で回収することができたという。
鈴木氏は「誠品生活日本橋は、新しいもの、独創的なものを見つけ、自主編集力を磨き続けたことがお客様からの支持につながっている。誠品生活日本橋は、書籍以外のモノ、コトを取り入れることに関しては成功している店舗といえる」と語る。
商品セレクト力とイベントのノウハウを蓄積することで進化を続ける誠品生活日本橋。お客のよりよい“体験”を追究し、苦境の中で工夫を重ねた5年で、その成果が数字にも表れてきた。開店当初の期待を超える、さらなる成長に注目が集まる。