京阪ザ・ストア(大阪府/達川俊夫社長)が展開するスイーツ専門店スペース「SWEETS BOX(スイーツボックス)」。駅ナカの固定スペースで、ケーキ屋や和菓子屋などのスイーツ専門店が週替わりで出店するという、ユニークなビジネスモデルだ。新業態が生まれた背景とその強みを、同社の常務取締役営業本部長である大額仁氏に聞いた。
駅利用者の日常に「楽しさ」を届ける「スイーツ」というコンテンツ
関西を拠点とする鉄道会社、京阪ホールディングス(大阪府)の一員として、京阪沿線のまちづくりと食を通じて、駅の魅力を高める役割を担ってきた京阪ザ・ストア。2000年に京阪電気鉄道(以下、京阪)の流通事業から分離独立し、現在は「スーパーマーケット・フレスト」をはじめ、駅ナカ新業態店舗「食の商店『もより市』」、駅ナカの「ユニクロ」や「MUJIcom」といったフランチャイズも展開している。京阪沿線にとどまらず、関東の小田急線や西武新宿線沿線でも事業展開しており、幅広い駅利用者のニーズに応える店舗・施設を手掛けている。
「駅ナカ空間の魅力向上」をめざす同社がとくに力を入れるのが、08年に大阪市の「京橋」駅に1号店をオープンした「SWEETS BOX」だ。「SWEETS BOX」とは、駅ナカに設けられた4~10坪ほどのスイーツ専門店スペース。有名ブランドや話題のスイーツショップが、週替わりで出店する。24年9月現在で39店舗を展開しており、12年には関東エリアに、23年には東海エリアにも進出を果たし、25年には神戸エリアへも進出予定だ。
店舗や時期によっては、日販が100万円を超えることもある。また、来店客数は全店平均で数百人に上るが、多い時には1000人を超えるという。
同事業を立ち上げた背景について、同社常務取締役営業本部長の大額氏は、次のように語る。「かつて駅ナカには、新聞やタバコを販売する店があった。しかし、時代の変化とともに閉店し、駅ナカスペースの有効活用が課題となっていた。そこで、駅を利用するお客様に楽しさや華やかさをお届けできるコンテンツとして、スイーツに注目した」
もっとも、毎日のように同じルートを通勤・通学する駅利用者を惹きつけるには、飽きさせない工夫が求められる。特定のスイーツ専門チェーンがテナントとして固定的に入居するだけでは、単調になってしまう。そこで、「週ごとにお店が入れ替わるスペースを「ブランド化」すれば、百貨店の催事のように常に新鮮な驚きと発見を提供できるのではないかと考えた」と、大額氏は話す。
出店者は人気のスイーツ専門チェーンから、地域密着型の小規模な店まで、多岐にわたる。店内に厨房は持たず、商品は出店するテナントが店舗に持ち込み販売する形だ。「SWEETS BOX」は現在、900を超えるバラエティ豊かなスイーツショップが出店しており、「次はどんな店が出店するのだろう」と楽しみに待つ“SWEETS BOX ファン”も多いという。
商品陳列から販促支援まで伴走
週替わりの出店形態は、出店者にとってもメリットがある。百貨店やショッピングセンターでの出店と比較して短期間で出店でき、初期費用も抑えられる。駅から距離のある店や、知名度を高めたい小規模店にとって、駅ナカという好立地で低リスクに自社商品をアピールできる絶好の機会といえる。
一方で、商品配送や販促面で苦労する出店者も少なくない。そこで京阪ザ・ストアは、商品の陳列方法や販売促進に関するアドバイス、売上データの分析に基づいた改善提案など、出店者への支援提供を徹底している。単なる場所貸しではなく、売上を伸ばすべく出店者に伴走する点が、「SWEETS BOX」の最大の特徴であり、成功の要因といえよう。
「SWEETS BOX」の出店スケジュールについて大額氏は、「トレンドや季節感を意識しながら、年間を通してバランスの取れた店舗展開を心がけている」という。出店者の選定基準は、京阪ザ・ストアがこれまで蓄積してきた「目利き」に依るところが大きい。同氏によると、駅を利用する幅広い年齢層に訴求できる商品力、比較的手の届きやすい価格帯、週に複数回利用したくなるような豊富な商品展開・企画力といった要素を重視しているという。
また、出店者には必要なショーケースやストック用スペースが用意され、フルラインアップを揃えられる店舗環境が提供されている。さらに、釣銭管理やゴミ処理といった運営面のサポートを一括して提供している。
これに対して、一般的な催事スペースでは、設備が簡素なため、出店できるブランドや業態が限られてしまうことが多い。「駅ナカという立地条件の良さに加えて、充実した環境が整っていることで、テナントの誘致が容易になっている」と大額氏は説明する。
1号店の出店以来、伸長を続けている「SWEETS BOX」事業だが、商品価格の高騰と節約志向の高まりによるマイナスの影響は否定できない。しかし、消費マインドが低迷しているときこそ、日常にささやかな贅沢をもたらしてくれるスイーツの存在意義があるという。「おいしいもの、甘いものの魅力には、抗いがたいものがある」(大額氏)。引き続き、出店者と共に、商品の求めやすさや豊富なラインアップを充実させたい考えだ。
近年は、デジタル技術を活用した取り組みも強化している。従来はアナログで行っていた業務に、AI-OCRを用いた自動確認やRPA(人間の業務をAIやルールエンジンで自動化する技術のこと)による売上データの自動集計などを導入し、デジタル化することで、業務効率化やデータ分析が可能となった。50店舗達成を目前に、運営体制にも磨きがかかっている。100店舗の出店を見据える大額氏は、「今後は関東エリアを重点的に強化したい。日本一の駅ナカスイーツ専門店をめざす」と意気込んだ。