大手ファッションECモール「LOCONDO.jp(以下「ロコンド」)」。パンプスやスニーカーなど靴に特化したECサイトとして2010年にサービスを開始し、現在ではさまざまなアイテムを揃える総合ECモールとして約80万人のアクティブユーザーに支持されている。
ロコンドを運営するジェイドグループ(東京都/田中裕輔社長)では、実はアパレルブランド向けに物流・ITプラットフォームを提供する事業も展開しており、BtoCとBtoBが連携したユニークなビジネスモデルを構築している。さらに、近年ではブランド事業にも進出するなど、アパレル業界で存在感を高めている。そのユニークな戦略と今後の事業展開について、代表取締役社長の田中裕輔氏に聞いた。
リーボックの国内事業権を獲得
2022年11月、ロコンドを運営するジェイドグループと伊藤忠商事のジョイントベンチャー「Reebok Japan (RBKJ)」が、独アディダス社から「Reebok(リーボック)」の日本事業ライセンスを承継したニュースは、アパレル業界やスポーツ業界で話題となった。
近年ではナイキ、アディダスなどグローバルブランドの後塵を拝していた印象が強いリーボックだが、フィットネス分野での強いブランドイメージや「ポンプフューリー」などの独自機能を生かして、「メゾン マルジェラ」をはじめとするコラボスニーカーを続々とリリース。復調を印象づけている。
創業期からの基幹事業であるECモール事業が売上の約8割を占めるジェイドグループだが、近年ではこういったブランド運営や商品開発にも自ら乗り出している。2020年に企画した人気ユーチューバー・ヒカル氏のアパレルブランド「ReZARD」とのコラボスニーカーは、サーバーが一時ダウンするほど注文が殺到し、約1週間で6億円を売り上げた。
目下、自社でライセンスを持つブランドはリーボックとアパレルブランドの「MANGO」の2つだが、「これからもブランドを増やしていく可能性は十分にある」と代表取締役社長の田中裕輔氏は積極的な姿勢を見せる。
この“リーボック効果”も後押しし、2023年10月に発表されたジェイドグループの2024年2月期・第2四半期決算は、GMV(取扱高)が昨対比30.9%の140.7億円、営業利益が同95.8%の8.0億円と大幅に伸長した。
BtoBプラットフォーマーとして物流からITまで支援
そのジェイドグループだが、Eモール事業と並ぶ事業の柱が、アパレルブランドの物流・ITを総合支援するBtoBプラットフォーム事業だ。関東に計約3万5000坪の倉庫「LOCOPORT(ロコポート)」を運営し、在庫管理や配送などの物流、ECサイトの開発、基幹システムの提供までを一手に引き受けている。「モード・エ・ジャコモ」「クラークス」など、その支援を受けるブランドは約50に及ぶ。
近年、多くのアパレル企業にとって課題となっているオフライン・オンラインの在庫一元化にも、他社に先駆けてコロナ禍以前から取り組んできた。欠品フォローシステム「LOCOCHOC(ロコチョク)」では、在庫の連携も毎秒ごとに同期され、ECとリアル店舗それぞれの在庫状況をリアルタイムに把握することができる。特に百貨店の取引が大きいレディスブランドにおいても、百貨店の在庫もシェアされ、在庫ロスを最小化している。
「ファブレスならぬ“ロジレス”サービスを提供。物流とECの両方を担っている当社だからこそ、倉庫を持てないアパレルブランドでもすぐに出店できるようサポートできる」と、田中氏は長年磨き込んできたプラットフォーム事業に自信を見せる。
ブランド事業で王者・ZOZOTOWNとの差別化を打ち出す
一方、ロコンドをはじめとする自社EC事業のほうは、ここ数年では踊り場を迎えている。コロナ禍を機に消費者のECシフトが進んだことで取扱高が拡大したが、その後はD2C需要が一段落したこともあり、自社ECモールの取扱高は横ばいが続く。
加えて、ロコンドにとって大きな脅威となる出来事が2019年に起こった。国内最大のファッションECモール「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの、Zホールディングスによる買収だ。田中氏も危機感を隠さない。
「ZOZOTOWNの存在がますます大きくなり、『ウィナー・テイクス・オール』(勝者総取り)となりかねない状況にある。『ECはZOZOTOWNと自社サイトがあればよい』と考える企業も増えてきている。ロコンドもファッションECモールとして企業の方々に想起してもらえるよう、これまで以上に存在感を示していかなければならない」
これまでロコンドは、BtoBのプラットフォーム事業を通じて多くのブランドとの接点を持つことによって、品ぞろえの強化を図ってきた。これからは、ロコンドでしか買えないブランドや商品の品ぞろえをさらに強化し、ZOZOTOWNとの差別化を図ることが求められるだろう。冒頭で紹介したブランド事業は、そのための一手といえる。
「GMV倍増計画」実現に向け越境ECも強化
もともとはドイツのVC(ベンチャーキャピタル)の100%出資によって2010年に設立されたジェイドグループ。米ザッポスのビジネスモデルに着想を得て、国内初の靴専門ECモール「ロコンド」を立ち上げた。
実は、田中氏自身は創業者ではなく、戦略コンサルティングファームのマッキンゼーに在籍しながら経営のサポートのような形でジェイドグループに関わっていた。しかし、ほどなくして同社が経営危機に陥り、親会社のVCから「あなたが経営を担うなら5億円追加出資する」と持ちかけられ、2012年に代表取締役兼共同創業者に就任した。
人員整理や全品買い取っていたアイテムの返品交渉などの“嫌われ役”を一手に担い、初年度には12億円もの赤字を計上。地道に経営を立て直しながら、肝心のECモールでは足幅も含めた詳細にわたるサイズ表記、当時は画期的だった返品サービス、靴以外のアイテムの拡充など機能やサービスを充実させていき、国内有数のファッションECモールとしての地位を確立した。
加えて、2012年に立ち上げたプラットフォーム事業も順調に成長。BtoCのファッションECモール事業とBtoBのプラットフォーム事業のシナジーが徐々に発揮され、2015年に黒字化、そして17年には東証グロースへの上場と、瀕死に近かった同社を見事に立て直した。
その田中氏が、目下の課題に置いているのが日本国内の倉庫から直接海外に配送する越境ECへの対応だ。来年3月には越境EC支援を行う企業の買収も予定しており、支援体制の強化を図っている。「特に台湾や中国などアジア圏では日本のブランドの人気は高く、市場のポテンシャルは大きい。プラットフォーム事業の物流サービスも越境ECに対応できるような形に変え、ウェブサイトも海外のお客さまが求めやすいUIの構築など、順次手を打っていく」
中期経営計画では236億円(2023年2月期決算)のGMV(マーケットプレイスの流通取引総額)を400億円に引き上げる「GMV倍増計画」を打ち出し、長期ビジョンでは2030年までに1000億円のGMVを目標に掲げる。
「現状の成長スピードでは簡単に到達できない目標。M&Aも積極的に行っていきたい」
マッキンゼー在籍時にアメリカに留学し、ザッポスCEO(当時)のトニー・シェイ氏の講演を聴き「Delivering happiness(幸せを運ぶ)」との言葉に感銘を受けたという田中氏。その言葉を胸に、「ZOZOTOWN一強」の様相が強まるECモール市場でこれからも挑戦を続けていく。